海外出版の日本ガイド本に紹介されている日本の料理は「すき焼き」「しゃぶしゃぶ」「江戸前寿司」とどの本も似たり寄ったり。これじゃあ「フジヤマ」「ゲイシャ」の時代から何の進歩もないような。日本出版のフランスのガイド本だって今では「クロック・ムッシュ」や「ウフ・アン・ムーレット」のような庶民が普段食べる、そして店でも一人前で注文できるものを紹介しているのにね。
私ならこう来る。まずは「立ち食い蕎麦」これには高度成長時代の日本の社会の昼食を「早く、安く、健康的」に支えた貴重な一品だから。そして居酒屋、特に紹介したいのは西新宿の「思い出横丁」ここは敗戦直後の闇市場がこの界隈に建ち並び、市場で売買した後の人たちの軽食を取る場所として戦後すぐに出来た場所。数年前の火事で一部が焼け再興されたけれど、私の行きつけの店「一富士」は昔ながらの佇まいをそのままに残す。ここには古き良き時代、西新宿の「ベルエポック」がそこにある。
[136]夢は叶えるためにあるもの
突然解雇されてから4ヵ月後近く、労働許可証が切れる直前に滑り込みセーフで再就職にこじつけた。再就職先は前の会社のライバル船会社。紹介してくれたのは前の会社の副社長。船が好きでブルゴーニュが好きで、アル中でも船の沈没で死んでも良いからここで船の仕事がしたいと言うことを知っていた彼は、私から船を、ブルゴーニュを取り上げたらただの「おばちゃん」になってしまうことを危惧してくれたようだ。
解雇直後、「とみこはこれからどうするんだ。日本にはもう帰る場所ないんだろう?」と心配してくれた。そう、両親が他界して、持ち家を処分してスーツケース一つでディジョンに来た。ここで自分の人生を形成するつもりでやってきた。だから毎年帰国しても帰る家がないからホテル泊まり。日本は故郷であっても故郷でなくなりつつある。だから意地でもこのディジョンに居座らなければ。運河と葡萄畑が心の拠り所。
副社長がライバル会社に電話してくれた。「もう知っての通りうちの会社買収されてね、米国以外の市場には船を卸さないんだよ。でね、日本市場担当している者も解雇されたんだ。お宅は日本市場興味ないかね。」と。電話先の相手は再就職先のブルゴーニュ支社支社長のところ。この会社も実は米国資本の会社で本社はボストン近郊のプリモス。本社でマーケティングを行い、ブルゴーニュは船の運営のみ。ここも米国市場以外は全く手をつけていないというクルーズ業界お決まりの米国市場中心型。