[765]押絵羽子板

いよいよクリスマスですね。そのあとにはすぐお正月がやってまいります。日本の年末のあわただしさは、この巨大イベントが1週間も空けないでやってくるからではないでしょうか。

さて、我が家には私が生まれた時に初めて迎えるお正月用に買ったと思われる羽子板があります。この羽子板は押絵羽子板といわれるもので、浮世絵を立体的にあしらった伝統工芸です。大きく重たい押絵羽子板は実際に羽根突きはできませんが、飾って楽しむにはなかなかいいものです。ちなみに押絵とは布を張ったという意味合いで、昔は「貼る」ことを「押す」といったことが語源となっています。

羽子板の羽子はトンボのことです。トンボの羽の形をした板という意味です。その羽子板で、汚れ落としの洗剤として使われていたムクロジの実の種に鳥の羽を付けたものをトンボに見立て、疾病の元である追い払う意味を持ち、羽根突きをする事が厄払いであると言われています。

その起こりは、羽子は胡鬼ともいわれ、羽子、胡鬼とはトンボの事を指すのですが、その昔中国では、秋になると万里の長城を越えて収穫した農産物を狙ってモンゴルが攻めてくるので、同じ時期にトンボが飛んでくることで警戒をした故事に由来しています。トンボが飛んでくる時期にはモンゴルが攻めてくる。それを羽根突きをすることで厄を払うという意味があったのでしょう。

羽子板の絵は極彩色の泥絵の具、又は金銀の蒔絵で描かれていましたが、その工法も段々と発達して、厚紙に布切れを巻いて貼る、さらに綿を含ませボリュームを付ける、等々変化をしてきました。綿を含ませると言う技法が現在の押絵細工の素となっています。絵柄は、花鳥、女性風俗、宝船、七福神、等の絵が主体でしたが、やがて歌舞伎役者の舞台姿を似顔絵で描くようになり、一般庶民の人気を得たようです。絵柄によって意味合いを持たせ、夢、希望を託し、これを出産、新築、開店、等その他のお祝いとして使うようになり縁起物としての地位を確保するに至ります。

毎年12月17日18日19日の三日間は浅草では羽子板市が開かれます。羽子板問屋や小売店そして製造元がそれぞれの作品を競い合う晴舞台です。押絵羽子板には一般的に男物と女物があり、男物は縁起物として不景気をはねのけると言われ店内に飾られる事が多く、女物は女子のお祝い物として飾られます。