[941]咽(のど)と喉(のど)
耳鼻咽喉科などと普段何気なく使っていますが、咽喉(いんこう)とは「咽頭(いんとう)」と「喉頭(こうとう)」を合わせた言葉で、どちらもノドを意味しますが位置がちょっと違います。
咽頭は鼻の奥から食道と気道が分かれるあたりまで。喉頭とはそれより下の声帯があるあたりをいいます。これらをひっくるめて咽喉といいます。咽喉は気道と食道をうまく切り替えるための重要な役割を担ったヒトならではの器官です。
もともと呼吸は鼻でするもの、食べるのは口でするものと決まっていました。現哺乳動物も皆そうなっています。別々の機能なので、したがって動物は食べながら呼吸ができます。ヒトも進化の手前では気道は鼻とつながっており、口は食道とつながっていたのです。こういう構造の場合は食べものを飲み込みながら呼吸ができるのです。
しかしヒトは進化の過程で二本足で立ち、頭の下に咽喉が来るようになってしまったので喉頭が下がり、気道と食道が平面交差になってしまいました。そのため、呼吸をするときと食べ物を飲み込むときは、切り替える役目の喉頭蓋という蓋を使って切り替えなければなりません。これがうまく働かないときは食べたものがひょんな拍子で気道に入ってしまいむせ返ることになります。老人になるとよくむせるのはこの機能がうまくいかないからです。
というわけで、ヒトは食べものを飲み込みながら呼吸はできません。呼吸しながら食べ物を飲み込むこともできません。どちらか一方しかできないのです。
ところが生まれたばかりの乳飲み子は、咽喉が未発達(哺乳動物と同じ)なため、母乳を飲みながら鼻で呼吸ができます。これが一年くらいたつと咽喉が発達し、気道の空気を口に送ることができるようになります。こうなると言葉がしゃべれるようになります。しかしその代償として母乳を飲みながら呼吸するという芸当はできなくなってしまいます。
動物が言葉をしゃべれないのは、呼吸する際の空気が肺から鼻に直接抜けてしまうので口による共鳴がなされないためです。吠えることはできますが言葉にはならないのです。犬や猫がしゃべれたら面白いと思いますが、それには彼らはまず二本足で立つことから始めなければならないようです。