[86]愛犬シェパード・太郎の思い出(2)
第86回
■愛犬シェパード・太郎の思い出(2)
「太郎」は昭和九年に家に来たのですが、その時はミカン箱に入る位小さな躰でしたが,見る見る大きくなって私が10才になる頃には立派な大人になりました。散歩に行くときも凄く引っ張るので、こちらは引きずられる格好ですので、母に特殊な首輪を買って貰いました。
其の首輪には長さ3cm位の真鍮の釘のような針が内側に3cmくらいの間隔で10本くらい植えてあるもので、それをすると痛いから犬が引かないようになる・・と云う物でした。最初のうちはいくらか効いて居たようですが、馴れて来たら全然効果はなく、帰ってきてはずすと首にすっかり刺さっているような感じです。これは10日くらいで止めました。
夏の暑い日には散歩から帰ると、井戸端に行って、バケツにポンプで水を汲んでやると、頭からバケツに突っ込んでもの凄く水を飲みました。
ひと月に3,4回洗濯屋が出入りしていましたが、此のおじさんにはすっかり懐いていて、いつも何処か遠くの方に散歩に自転車で行っていました。「太郎」は走るのが大好きのようです。ですけど一つだけ困ったことがありました。
それは雷が大嫌いなんです。縁の下に繋いであるときに大きな雷が鳴ると隅の方に小さくなってブルブル震えているんです。可哀想になって鎖を放したら、家の中にドカドカと入り込んで、裏手の風呂場に入って、隅之方に座って何を言っても梃子でも動かないと云う感じです。
「太郎」は夜になると庭に放しての番犬な筈なんですが、朝起きて庭を見ると大抵いないんです。見ると門の横の潜り戸が開いているんです。木戸の桟を開けることを憶えてしまったのですね。ちゃんと夜になると外に遊びに行ってしまうらしいのです。
朝になって居ないので、外に出て口笛を吹くと何処からかすっ飛んで帰って来るんです。こんな事が日課となりました。
この頃は放し飼いの犬が多かったのですが、うちの「太郎」は余所の犬とは喧嘩しませんでしたが、相手の犬が大きいと周りを飛び回っている感じです。でも何処の飼い犬か分かりませんでしたが、中型の茶色の巻尾の日本犬に出会った時の微動もしない風格にすっかり魅了されてしまいました。「良し、将来は必ず日本犬を飼うぞ」と決めたんです。
昭和18年の夏のある晩、この頃は鉄格子のはまった犬小屋に入れて居ましたが、この晩は雷雨だったためか、泣き通しでした。あまりに鳴くので外に出てみましたが、雷が嫌いなためにそのままにしていました。そして暫くしたら急に鳴き声がしなくなったのです。
ヤレヤレ収まったかとそのままにして置いたのですが、翌朝犬小屋を覗いたら「太郎」は死んでいました。この頃は人間だって食べ物が不自由な時代でした。もしかしたら昨晩激しく鳴いていたのはお腹が空いていたからかな? と思ったりして可哀想なことをした・・と思いました。数々の想い出を作ってくれた「太郎」でした。享年9才でした。
[前回の記事:愛犬シェパード・太郎の思い出(1)]
シェパード(左)
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