店の経営者であることを明かした男は、その日から着々と経営者の力量を現してきた。男の話によると、経営者になったのは私と出会うほんの少し前のことらしい。
今まで閑古鳥が鳴いているような店だったのだが、男が経営者として抜擢されると店には多くの客が来るようになった。それに伴い私たちの仕事も忙しくなった。私はもちろんのこと店の子達も一生懸命働いた。夜の世界では一人一人が勝ち残るのは難しいと言われているが、男の機転で店内の争いを沈め互いの魅力を高めあえるような雰囲気作りがなされていった。その結果、店の評判はさらに良くなりお客が増えていった。また、働きやすい職場という評判も伝わり店に働く女の子も増えていった。
そんなわけで、徐々に男を社長と呼び慕う子達が増えていった。例外なく私もその一人となったのである。とはいっても、この時点ではまだ社長と店員のひとりという関係でそれ以上は何もなかった。
ある日、休憩中に男が私に声をかけてきた。
男 「なぁ、夢乃。ちょっと頼みがあるのだけど。」
夢乃「なんですか?社長。」
男 「俺、忙しくて買い物にいけないから野暮用だけど頼まれてくれないか。」
夢乃「はい、いいですよ。何を買ってくればいいんですか?」
男 「俺、今住んでるところに引っ越してきたばかりだから生活用品をちょっとそろえてほしいんだ」
夢乃「わかりました。じゃあ買い物リスト作りますね。」
こんな会話の中で買い物リストを作り買ってくることになった。約1万円程の買い物になったのだが、「これで買ってきてくれ」とポンと1万円を渡された。
だからどーしたの?という声が聞こえてきそうだけど、確かにここまでの私は、ただ単に男に買い物を頼まれてお金を預かり買ってきた商品を渡すというお使いをこなそうとしているだけである。お金もしっかり預かっているし、何一つ詐欺と結びつくことはない。
しかし、一見なんでもないこの普通のやりとりが・・・私を着々と罠に陥れる為の男の作戦の始まりだったのである・・・・・
早乙女夢乃