[13]奪われた心と体

男が私を金庫番に仕立て上げるのと時を同じくして私と男の関係は更に親密になっていった事を否定できない。
出会ってから一歩一歩私を金庫番にするべく準備を始めていた男。男の家の鍵を持ち、男の生活用品を買揃え、男に送迎をして貰う私。私に立替払いを頼み、お金を引き出す男。そんな仲であることに違和感が感じられないようになっていた。
ここまでの関係にもなると、読者の皆様から「体の関係はなかったの?」なんて声が聞こえそうな気がしてくるので答えておこう。はたして体の関係はなかったのか・・・
結論から言えば、「あった。」ことになる。ここで「なかった。」と言ったところで誰が信じるだろう。嘘偽り無く「あった。」これが事実。ただし、この体の関係さえもアカサギの作戦の一部だったということは付け加えておきたい。
とにかく男のテクニックは上手かった。キスの味。女の扱い方。どうすれば女が感じるか。どうすれば女を絶頂まで導くことができるかを知り尽くしていた。男と濃厚なキスを何度もした。男の前で裸になり体を許した。男の手と舌は私の乳房を這い回し下の方へ。遂にはあそこへ伸びていった。私の体は淫らにも感じ始め震えだした。遂には絶頂まで達した。何度も何度も絶頂感を味わった。今までに感じたことのないような絶頂感だった。
そんな男のテクを経験した私は、男との関係にハマってしまった。男を愛していたからというよりも男のテクに参ってしまったのだ。男の下半身は役に立たない。つまり男と合体することは不可能なのだが、その状態で女を絶頂に導くことができるテクをもった男。ただ者ではないことを理解していただけるだろう。
また、男と合体できないことは私には好都合だった。体の絶頂感を味わいながら、女に付きまとう「望まない妊娠」という結果になりうることがないからである。
しかし、男も同じだった。男の下半身が役に立たないことは、後々面倒なことにならずに女を自分のモノにする、つまり私を金庫番に仕立て上げる為の作戦として都合よく利用していたのだ。
この時点で、私の心と体はアカサギに完全に奪われてしまっていた・・・
早乙女夢乃

[12]私は金庫番

社長となった男は、その日以降私を完全なる金庫番に仕立て上げようと行動を開始した。
「社長にもなると従業員の面倒を見るのがいろいろと大変なんだよ。」とか、「世話のかかる従業員が多くて大変なんだよ。」とか私には全く関係ないと思うような理由付けをして少しずつ私の現金を持っていくのだ。
もちろん私はそういう時、「なんで私が出さないといけないの?」と毎回言うのだが、男はすかさずお決まりの言葉を発する。「俺とオマエの仲じゃないか。」
私は、「俺とオマエの仲ってなによ!」と思いながらもその言葉に酔わされていたのだろう。
男と出会っていろんなやりとりを経てそれなりの信頼関係が築かれていたことに加えて、私もそれなりに男にお世話になっているという後ろめたさとでもいうのだろうか、さらに今まで何度も貸したお金が返ってきた実体験、そして毎回貸してほしいと言われる金額が小額なことで私はついつい「仕方ないなぁ。」という気持ちになりお金を差し出してしまうのだ。
1回1回の金額は小額なのだが、出会った当初と違っていった点がある。まぁ説明せずとも分かっていただけるとは思うが、「現金」そのものを貸して欲しいと言われることだ。
2万円程度の時は比較的すんなりと出してしまっていた私。5万円前後のときはひと言嫌味を言ってはみるもののやはり意外と抵抗無く差し出してしまっていた私。そして10万円、15万円、20万円と、徐々に1回の金額が多くなっていったのだ。
徐々に金額を増やされていった事とその頃には男に貸すことが当然とでもいうかのように平然と私からお金を引き出していくようになった男。そのあまりにも自然な話術からなのか、その頃には私の金銭感覚もすっかり麻痺していたのだ。
今考えれば、これら全ては男の計算通りのストーリーだったのだろう。だからこそ、当初は1回に私から引き出す金額を少なくして徐々に徐々に金額を増やし私の金銭感覚を麻痺させ、呪いにかけるような話術で私からお金を引き出したのだ。
そんなことを繰り返すうちに、少しずつ少しずつ貸し金は積み重なっていった・・・
早乙女夢乃