日本語は複雑と思うものの、唯一気楽なのは、名前を呼んだり、書いたりする時に性別がないことです。ところが、英語では区別しなければなりません。顔を知っている人ならともかく、会ったことも見た事もない人に手紙を書いたり、電話をする時、はたと困ることがあります。
私自身、Mrと書かれたメールやFAXを何度ももらい、「私はMsでございます。」と言い返すのも変なので署名のところにカッコをつけて(Ms)と書いておいてから名前を書くのですが、いつまでも気づかない人もいます。外国人の友人で何度も会っているのに、その人の秘書がいつもMrとメールを書いて来るので、これほど何回も続けば逆にきっと女性だと思われると何かまずいことがあるのではないか、と思い、ご本人に会った際に冗談でそのように聞いてみたら、「女性だと秘書に言ったことがないだけで、単なる間違い。何も都合の悪いというような問題はない。」ということで大笑いしたことがありました。
会ったことがある人でも、展示会やパーティで一斉に大勢の人に会うとあとで名刺を整理する時、どちらだったか不安になることがあります。欧米人ならファースト・ネームでだいたいわかりますが、アジア系の方など首をひねることもあります。肩書きで区別をするというのも日本ならともかく、女性の社会進出のめざましいASEAN諸国など、政府機関の管理職は女性がずらり、ヒラが男性、社長は奥さん、ご主人はただのマネージャーというケースもあります。慣習的にはわからない場合はMr.とするようです。確率の問題でしょうか。
ある国際機関では女性のプロジェクト担当官の方々は名刺に(Ms)と印刷されています。これはいただいた方は便利と思うものの、私の場合はやはり、名刺をお渡しした方とは何らかのお話をさせていただくケースがほとんどで、わざわざ(Ms)と印刷するのもおかしい気がし、苦肉の策として淡いさくら色の名刺を使っています。男性でこの色の名刺をわざわざ選ばれる方は珍しいし、ファイルされたときもすぐ目につくという効果を狙ったものです。
時々考えるのですが、兄弟姉妹と細かく区別をつける日本語でどうして性別による呼び名がないのでしょうか。英語ではきょうだいは男性か女性の区別だけで上か下かはよくわかりません。ちなみにインドネシア語では上か下かの区別しかなく、そこに必要な時は「男性の」、「女性の」という言葉をつけると聞いたことがあります。こんなささいな事をひとつとっても、国によるものの考え方、文化の違いがわかるような気がします。これも国際社会に触れておもしろいと思うことのひとつです。
河口容子