[061]輸入から起業へ-後日談

  8月21日号に「輸入から企業へ」というタイトルで小口輸入の話を書かせていただきました。読者の方にもご自分の事として興味をお持ちになった方がいらっしゃったようです。さて、あれから 3ケ月、このセミナーの受講者たちはどうしていると思われますか?実は11月22-24日、ある地方都市のビルで行われたインポートバザールに「店主」としてデビューするのが最終ステップの「発表会」だったのです。
開講したのは 8月、週 1回計 5回の授業が終了したのは 9月第 1週目です。受講生はこの間に自分の取り扱う商品と海外の仕入先を決めます。そしてインポートバザールに向け仕入先との交渉、発注、輸入業務、価格の設定や販売計画を各自で準備しますが、講義が終了してからも、 2度のスクーリング、成田空港の見学と顔をあわせる機会が設けられ、メーリングリストでのサポート体制もばっちりです。そもそもこの講座の受講資格は、高校レベルの英語が解せること、PCが使えることが条件でした。貿易実務については未経験でも大丈夫というふれこみではありましたが、実際に参加しているのは貿易実務講座の修了者、会社で輸入を担当している方、個人輸入の経験者などです。
小口輸入にどんなスキルが必要かといえば、ますは商品選択能力、日本語で通じる相手が海外で見つかるのはごくまれですので語学力、貿易実務の知識、商品によっては法令で規制や検査が義務付けられていますので書類作成能力、利益計算も含めた販売能力です。実際のところ小口輸入というのは決済条件、受渡条件に選択肢がほとんどないため、マーケティングや販売能力が勝負といえます。
 小口と言っても仕入先はメーカーや問屋となるわけです。交渉を重ねても小口では売ってくれないことも多々あります。もちろん、はなから相手にされないこともあります。また、商品によっては輸入販売に必要な検査費用をコストに参入すると小口では販売価格がべらぼうに高くなってしまうこともあります。受講生たちは修正に修正を重ね、とうとう秋口にはバリ島に買い付けに行く男性も現れました。パーティ用のキッチングッズを扱う予定の女性は旅行先のニューヨークでもしっかり商品をチェック、一方国内でもトレードショーめぐり、ショップ視察の日々がそれぞれ続きました。


 「やっぱり、だめだ。」と音を上げるメンバーに講師陣も夜中まで後押し、「ずっと教室でお隣だったじゃないですか。バザールでもお隣で出店してください。」「私のお店にも商品を置かせてもらえれば一緒に売ります。」と仲間からの熱いコールに気を取り直す一幕も。最初は猛反対だった奥様もしだいに乗り気になり、会社員のご主人に代わって展示会やセミナーに足を運ぶようになったりと、講義の始まった頃は質問も意見もなく私をすっかりがっかりさせた受講生たちでしたがバザールを目前に俄然気合が入ってきました。
 バザールのオープンは金曜日。会社員で会社を休めない受講生に代わり、今回商品が間に合わず出店できなかった受講生がお留守番。ディスプレイ用に持ってきた小物を貸しあったりと和気あいあいです。目標を同じくし、苦労がわかりあえる仲間のすばらしさです。
 バリ島の絵画を出店した受講生のお客様第一号は何と90歳の男性。ご自分も絵を描かれるとかで、息子さんの誕生日のギフトです。耳が遠いということで長時間かかっての商談でしたが、別の受講生のカードを買ってメッセージを添え、また別の受講生のアロマキャンドルをご自分用に買って行かれました。商談中に話を聞きつけたその他の受講生たちも集合、一斉に「ありがとうございました。」ご老人は「おやおや、急に人がいっぱいふえたね。」と照れくさそうにうれしそうに帰って行かれました。
 これはセミナーの最終ステップで本番はこれから。まだまだ乗り越えなければならない難関が多々あることでしょう。記念にひとりずつ、各人のお店をバックに写真を撮りました。名づけて「店主の肖像」。「何かに賭ける」人生を味わっている受講生たちの誇らしげな笑顔の写真群です。
河口容子