[356]あいづちのマナー

知人がメルマガで「そうですね」と言うフレーズを取り上げました。最近、スポーツ選手のインタビューでやたら耳にすると思っていたところ、タレントや政治家までが「そうですね」を連発するようになりました。何か相手が言うと必ず「そうですね」と機械的に前置きして言い出す、これを個性がなくて耳障りだと知人は指摘しました。ちなみに知人は中高年の会社経営者の男性です。
実は私ももっと以前から不快に思っていて、ひとつは用法に誤りがあることです。通常「そうですね。」というのは相手の言うことに同意する場合で「おっしゃる通りです。」と同じなのですが、「今日の結果についてどう思いますか?」と聞かれ、「そうですね」は変です。この場合は単なる前置きの時間稼ぎの言葉のようです。確かに「えーっと」「う~ん」と前置くよりは丁寧な感じもしますが、言うたびに身構えているのだな、きっと言う内容は指示されているのだろうと勘繰ってしまい、素直な気持ちで発言を受け止められません。
そもそも圧倒的上の人に対して何か聞かれて「そうですね」と前置くのは失礼でしょう。生徒から質問を受けた先生が「そうですね」と言ってから説明を始めることはあっても、先生に質問された生徒が「そうですね」とは言わないはずです。この言葉を何か不快に感じる人がいるとすれば「上から目線」や変ななれなれしさを嗅ぎ取っているのでしょう。あいづちは短い言葉だけに深い言葉のニュアンス、言い方、言う人のパーソナリティが相手に大きな影響を与えるものです。
一時流行した「嘘!」というあいづちも相手を嘘つき扱いしているようでけしからんという方がいらっしゃいましたが、では「本当?」なら問題ないかと言えばこれも連発すれば結果は同じだと思います。
英語の世界もまったく同じであいづちのバリエーションがふえ、タイムリーに使い分けることができれば上級者とよく言われます。確かに、英語がかなり話せてもあいづちは Yesの連発のみという方がかなりいらっしゃいます。聞きとるのに全神経を使ってしまうので余裕がないのです。あるいは次に自分が何と言おうか考えてしまい、あいづちはおろそかになってしまうのでしょう。
ところがパーティなど雑談の場になると、あいづち名人は「たくさんしゃべる必要がなくて疲れない」「相手から見て好感度大」「機械的に同じ言葉を繰り返すより知的に見える」のです。話題がなくて困る、英語でテンポ良くやり取りができないと言う段階ならあいづちを何種類か覚えて上手に使いまわせば快適に時間は過ぎて行きます。
ついでながら個人的に嫌悪感を持ってしまうケースをご紹介します。日本人には「イエ~ス」と間延びして言う人が多いのですが、「そりゃあ、ごもっとも」「もちろんで~す」というような強調した場合のみで、フォーマルには短く「イエス」と答えるべきです。何にでもyou knowをつける人。これは「でしょう?」「ほらね?」のように相手に同意を求める表現でうんざりします。Actuallyを連発する方も気になります。「実際のところ」「本当はね」のような使い方ですが、じゃあさっきまでの話は建前か嘘だったのか、真面目に聞いて損した、などと思ってしまいます。
面と向かっている場合は、話さなくてもしぐさや表情でも意志表示ができますが電話ではわかりません。電話ではきちんとあいづちを打つことがマナーの第一条件です。
河口容子

[349]心の伝わるメール術

 新型インフルエンザに日本列島がおののいている頃、感動的なメールをいただきました。「日本で新型インフルエンザが発生し、 4,000校も閉鎖したと聞き驚いています。先生はお元気でいらっしゃいますか?ハノイで一度しかお会いした事がないのにいきなりメールをして失礼とは思いますが様子を教えてください。」
 送信者はベトナムのニンビンにある商社の役員でした。同氏とは2006年のハノイでのセミナーで名刺を交換させていただきましたが、 200~300 人の方がセミナーに参加されましたのでほんの一言二言の挨拶だけだったと記憶します。成長著しく、目まぐるしく変化をとげるベトナムにあって 3年近い時を超えてわざわざ思い出してくださるとは本当にありがたいと思いました。私はお礼とともに日本の様子を取りまとめ、ひょっとして仕事柄日本の状況を継続的に知りたいのかも知れないと思い NHKの英文サイトの URLも教えておきました。ニンビンはハノイ市から約 100kmのホン河の河口にある省ですがこんな奥ゆかしい人物をはぐくむ場所をぜひ訪れてみたいと思いました。
 次は2009年 3月 5日号「春の別れ」に出てくる元ベトナム大使館の商務官からのメールです。エリート中のエリートの彼ですが真面目すぎて要領の悪いところもあり、日本で生まれた二人のお子さんがベトナムの環境に慣れたかどうか心配で近況をたずねたところ、いただいた返事です。「ご心配いただきありがとうございます。家族は新生活とハノイの環境に慣れました。息子は保育園に通っています。日本語はもう忘れてしまい、日本語の歌 1曲が歌えるだけです。娘は 9ケ月ではいはいをし始めました。妻も働き始めたのでお手伝いさんを雇いました。みんな忙しくてあっという間に 1日が過ぎていきます。通産省では国際経済協力の仕事を担当していますが、副局長になる予定です。帰国したばかりなので数ケ月待たなければいけませんけれどね。早くハノイにいらしてください。お目にかかれるのを楽しみにしています。」日本人は公私ともに忙しい、あるいは自分が出世してしまったら、返事なんていちいち書かないという人が多いようですが、彼の律儀さは健在でした。
香港のビジネス・パートナーとの仕事の話はほとんど夜の11時から 2時の間にチャットを使って行うケースが多いのですが、「今日は眠いんです。朝の 4時過ぎまでマイケル・ジャクソンの追悼式典をライブで見ていましたから。ジャクソン・ファイブの時代のマイケルを覚えていますか?」「もちろんだとも。ほとんど全部歌えるよ。」ビジネス・パートナーは私より少し年上ですが、よくも 6年以上も一緒に仕事をしていると自他ともにあきれるくらい性格が違う、というか奇人変人大会のような組み合わせです。音楽、映画、本、歴史が共通の趣味でこういうちょっとしたやり取りを積み重ねる事により長続きしているように思います。
 比べてみると日本人ビジネスパーソンからのメールはほとんど通りいっぺんの仕事の話ばかりです。表現下手なのか余裕がないのかわかりませんが、親しい相手ならもう少し相手を思いやったり、楽しませる可愛げがあったほうが好感を持たれ仕事でもプラスになる気がします。
河口容子
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