[383]採点すること、されること

前シリーズの「日本がわかる!」を執筆中からオリンピックの話題は必ずと言って良いほど取り上げて来ました。自分が好きという事もありますが、国際化をわかりやすく語るのに良い機会だからでもあります。今年感じた事のひとつはカーリング娘たちをメディアはこぞって報道したのに比べ、パシュート娘たちは銀メダル、それも限りなく金に近い銀メダルにもかかわらず報道が地味だったことです。どうも最近はアマチュア・アスリートもタレント化していて結果よりも人気に比例した報道量となっているような気がします。これは大きな変化かも知れません。

もうひとつ感じたのは採点競技の限界。たとえば、ノルディックのジャンプは飛距離、飛型、着地姿勢を点数化して足し上げたものが結果となりますが、飛型や着地姿勢の良し悪しは素人でもわかりやすいものです。速さ、距離、高さ、球技の得点などシンプルに勝敗がわかる所がスポーツの潔さ、さわやかさだと思うのですがフィギュア・スケートに至っては素人にはまったく訳のわからない複雑な採点法方式です。ジャンプの種類によって点数が異なりますが、その差が全体の点数の中で妥当なのかどうか私にはわかりません。見栄えでの加点というのも基準があいまいで、ジャッジの主観や状況により違うのではないかと思います。その実、国際競技で実績の少ない選手には点数は控えめという解説を聞いたことがあります。

このルールで行けば、一番点数が取れるプログラムをシミュレーションして作り、その通りスムーズに表現できれば「金メダル」という事になり、選手個々の持つ個性は点数につながらなければ封印されてしまうような気がします。技術的には限界に達し、高度の技にチャレンジすれば表現力や見栄えでどうしてもミスが出、逆に氷上バレエに重点が傾けばもうスポーツとは呼べなくなります。人間が人間を短い時間で評価する難しさの象徴でもあるような気がして、フィギュア・スケート界は今後どんな展開をしていくのか楽しみでもあります。

話は変わりますが、 1月と 2月に「小口輸入のためのマーケティング」というテーマで講演をやらせていただきました。特に公的機関主催のセミナーでは講師は聴講者アンケートにより採点されるのです。 5段階評価を行い、4と5の比率を顧客満足度としており、1月の分は95.6%、2月の分は 100%でした。私自身の出来栄えは 60-70点と思っていただけに驚くと同時に甘い点数をつけて下さった聴講者の皆様に感謝しています。

私自身は「うれしい、良かった」でおしまいですが、企画担当者にとってはセミナー事業の存続やご本人の評価にまで影響するようで大変重みのある採点結果のようです。これも明確な採点基準があるわけではなく、あくまでも「雰囲気」や「印象」が与える影響が強いのではないでしょうか。私が聴講者となって採点する際は 3を基準にして、資料が丁寧に作られている、準備が行き届いている、わかりやすく理解させる工夫がなされている、ユニークな理論や経験談の披露、身だしなみや態度を総合して加点減点をする事にしていますが、考えれば考えるほど、講演する立場も知っているだけに迷う事も事実です。

さて、長らくおつきあいいただきましたエッセイ「誰でもなれる国際人」をメルマガという形でお届けするのは次号で最後となります。違う形での情報発信を準備中です。詳しくは次号でご案内させていただくつもりです。

河口容子

[377]輸入から起業へ ふたたび

1月、 2月と 1回ずつ小口輸入のためのマーケティング・セミナーの講師を務めさせていただいております。主催は小口輸入のサポートをずっと行ってきた経済産業省傘下の公的期間です。小口輸入にチャレンジした方がたへのアンケートから国内販売について問題があるとの回答か多いことからこのテーマが決まりました。そもそも小口輸入に関心を持つ方は「海外商品に関心がある」「輸入実務の経験者」「英語など外国語が得意」という傾向があるため、「輸入」の部分にエネルギーが注がれ、国内で販売する事に関しては勉強不足、計画不足という傾向があります。商社マンにとって輸入のポイントは「国内でいかに売るか」で輸入は単なる「仕入の手法」にしかすぎないのです。

私自身は講師業ではありませんので、教え込むというスタンスではなく、自分の経験や考えをまとめる機会、それを聞いていただいた方の何かのヒントになれば幸い、というとらえ方をしています。演壇に上がってからの調子の良し悪しは聴講者の方々の様子が隅々まできちんと見えているか、空気が読みとれているかでわかるのですが、話しながら口からポンポンと例が自然に飛び出すと内心「何であがりもせず厚かましい性格なのだろう」と我ながらあきれてしまいます。資料の余白が真っ黒になるほどメモを取っている方、「うん、うん」とうなずく方、冗談に笑う方など、が確認できるとこの機会をいただけて本当に良かったと感謝の気持ちでいっぱいになります。

そもそも個人で起業をするという事はオールラウンド型の能力が要求され、5段階評価で5もあるが、1もあるという方には向きません。不得手なものでも3のレベルまで引き上げないと世間には通じません。小口輸入をこつこつと続けておられる方に主婦が多いのは家事、育児、家計のやりくりと種々な事をタイムリーにこなす能力がいかんなく発揮されている事や経済的な責任が少なく欲張らずにすむからだと感じています。また、買い物をするのは女性が多い事から女性の心理がわかる、きめ細やかな対応ができる、という点もあるでしょう。

ところが最近のセミナーは圧倒的に男性が多いのです。失業への不安、サイドビジネス狙い、退職後の趣味と実益をかねて、などニーズが多いのは何となくわかります。転職先を求めてさ迷うよりは独立心を大いに評価しますが、ひとりでの起業は究極の自己責任です。「政治が悪い」「社会が悪い」「会社や上司が悪い」と責任転嫁をしがちな日本人にこの自己責任が耐えられるのかどうか少し不安です。

親切な知人や友人たちが何やかやと世話をやいてくれるのも起業後 3-4ケ月のもの珍しいうちだけ、「他人の不幸は蜜の味」国民の日本では「いつ潰れるか楽しみ」な人々がたくさん見守ってくれます。起業したてなら「仕方ない」で済む話も、起業後1年もたって何も成果が出なかったり、泣き言を言ってしまえば完璧に信用を失います。こうして、1年以内に半分が消えていきます。消えずにすむには日々の学びや気づきを改善に取り入れていくしかありません。

小口輸入については2003年8月21日号「輸入から起業へ」と11月27日号「輸入から起業へ・後日談」で触れておりますのでそちらをご参照ください。

河口容子