[025]分業社会

 新入社員の男子総合職には一般職のアシスタントがつき、課長代理の私にはいない、という冷遇を会社員時代に受けたことがあります。いわゆる女性差別です。自分でお茶を出しながら面談をする、営業のかたわら伝票の入力や発注書の作成など特に月次や年度末の決算期などは事務仕事に追われてんてこまいでしたが、社内の書類の流れやそれぞれの意味、システム上の裏ワザ、営業活動をする上で手続き上おさえておくべき点など、いろいろ学ぶ点がありました。この経験が後日業務のシステム化を行う際に役立ち、また現在の業態にも多いに貢献しています。
 産業革命後、大量生産体制が可能となり、効率性から分業という発想が生まれたと思います。大企業ではホワイトカラーも分業体制をとっています。たしかに、同じ業務を大量にこなさなければならない企業なら、分業の方が効率的です。しかし、そうでない場合は、自己完結でやる方が絶対早く、当然コストパフォーマンスも高いということを忘れてはいけません。
 たとえば、私が輸出をするとします。総合商社なら営業担当とそのアシスタントが契約の締結と必要な書類作成と入出金の管理をコンピュータで行います。実際の船積書類は受渡という部署なり担当(通関業者からの逆出向者だったりします。)が作成して通関なり船積みの指図をします。実際の入出金行為は財務が行います。他に正しく記帳がなされているかチェックする経理の担当も出てきます。完全な分業体制です。これを私の会社では法人税や消費税の申告に至るまで全部ひとりでやっています。もちろん、人海戦術が必要な時はアウトソーシングしていますが。
 なぜひとりでやれるかと言うと、指示や説明を行う時間やレポート作成、社内会議に費やす時間が不要だからです。これはコストの削減という意味では偉大な力を発揮します。現在、大手総合商社から仕入れさせていただいている商品がありますが、彼らはコスト面からもスピード面からも私のビジネスには勝てません。メーカーから売りつなぐのが精一杯です。


 最近、デザイナーの育成をされている日本でも有名な方がたとお会いする機会がありましたが、日本のデザイナーの卵たちは「営業能力がない」と口々に言っておられました。じっと誰かが指示してくれるまで待っている、と。たとえば東南アジアなら、自分でデザインをし製造もする。そのうち輸出もするし、自分の会社も作ってしまう、という事は不思議ではありません。
 日本で翻訳や通訳を仕事とされている方は多いですが一部の方を除いては忙しくて仕方がないというのは聞いたことはありません。外国語の苦手なビジネスマンが山のようにいる国であるにもかかわらずです。また、船積通関書類の作成を外注しようとしたら「パソコンでは作れません。タイプだけで十分です。早いですよ。」と言われがっかりしたこともあります。私の会社で作る船積書類の一部は船積前に現地のパートナーにメールで転送され、そのフォーマットをベースに彼らが事前に作業を開始します。残念ながらタイプでいかに速く美しく打ってもらっても何の効率化にもつながらないのです。
賃上げができない時代とは言え、やはりまだまだ賃金が高水準の日本で旧態依然とした分業の発想を持っていたら国際競争力はますますなくなります。業務の専門化、複合化が進むなか、そして社会の活性化のために起業家をふやすためにも、真の意味での「ゼネラリストというスペシャリスト」や「スペシャリストにしてゼネラリスト」という人材の育成が必要だと思います。
河口容子