[035]アテンドの達人(1)

 観光客のお世話をするのはガイドですが、仕事でやって来た外国人に付き添ってお世話をすることを通常アテンドをすると呼んでおります。総合商社に勤務していた24年間もそして独立してからの丸 3年間もアテンドは仕事の一部です。海外の取引先の方から挨拶状などで「一番記憶に残るのは日本滞在中にいろいろ親切にしていただいた事です」などと書いてもらうと本命の仕事ぶりをほめられたより何となくうれしくなってしまいます。アテンドの達人になろうと日々努力していることを 2回に分けて経験談をまじえながら書いてみようと思います。
まず、来日前です。実際に直接外国人のお世話をしない人であっても頼まれるのがホテルの予約だと思います。実は私にとって一番の悩みの種です。先方からホテル名の指定、あるいは予算の指定があれば問題ありません。ところが任せるといわれると困ります。高すぎるホテルを予約して内心困ったと思う人もいれば、親切心で安いホテルを取れば馬鹿にされたと怒る人もいるからです。また、宿泊費はできるだけ抑えて食事や買物にお金をかけたいという人もいれば、その逆の人もいます。私はいくつかの選択肢を用意してその理由をつけることにしています。「ここは普通のビジネスホテルですがオフィスとの往復は徒歩 5分ですので便利です。」「ご家族がご一緒なのでデパートやレストランが周辺にたくさんあります。地下鉄を使って外出されるにも便利です。」などとコメントをつけ最近はホームページも多々あるので URLを書いておいて参考に見て選んでもらうこともしています。空港まで出迎えをしない場合はリムジンバスが着くホテルをお薦めしたりもします。


 特に女性の場合は安全、清潔、美しいをポイントに、ホテルの中に売店がなければ近くにドラッグストアかコンビニがあるかをチェックしています。また、普段からなるべく多くのホテルに食事などに出かけて行き、研究をしております。もちろんお客様自身にさりげなく感想を聞くこともありますし、女性で親しい人ならば部屋の中を見せてもらうこともあります。たかが、一部屋ですが、出張期間の大切な「家」だからです。
 次の来日前の仕事としてスケジュールの策定があります。先方から指定された時間に面談するだけなら簡単ですが、滞在中のスケジュール組みをすっかり任されることがあります。旅慣れている人、順応性の高い人を除くと異文化の中に入り、しかも時差などあれば、かなり疲れます。緊張や興奮で本人が疲れに気づかない場合もあります。過密なスケジュールや接待漬けにしないことです。面談相手が遅れて来る、会議が長引く、移動に時間がかかるということも十分考え、自分ひとりならちょっと時間が余りすぎるかな?という程度がちょうどいいと思います。そして本当に時間が余った場合はどうするかも準備しておきます。
 私はいつも詳細なスケジュール表を作り、会社訪問などがあれば連絡先や面談相手の名前や役職も必ず入れて来日する人に事前に渡すようにしています。それを見て服装やお土産の有無、話す内容など準備がしやすくなります。この表をコピーしてその人の留守役の人に渡せば本国で緊急の用ができても連絡を取ってもらうこともできます。特に女性の場合は、スーツさえあればというわけにはいきませんので気候などを知らせどんな洋服の準備をすればいいか具体的にアドバイスをしています。たとえば「工場見学へ行って役員の工場長に挨拶をするのでこの日はカジュアル・ルックでもいいがジャケットくらいは持ってて行ったほうがいい、ディナーに招待される可能性もあるので。」などという風にです。単に本人が恥をかくのみならず、服装の極端な失敗というのは仕事の成果に関係するからです。
河口容子