[247]一気に脚光を浴び始めた中部ベトナム

 今年の秋もベトナムで講演を行なう予定です。幸い今年はベトナムに関するセミナーが日本で多く開かれ、じっくり情報収集や分析を行ないながら構想を練ることができそうです。先日は中部ベトナムへの投資促進セミナーがありました。ベトナムは北のハノイと南のホーチミンシティを中心に商工業が発達しており、中部というとダナン、フエ、ホイアン、ニャチャンといった観光地の情報が断片的にあるものの、ビジネス環境については限られており、今年の2月にクライアントの依頼によりベトナムに 100ケ所以上ある工業団地の調査をしましたが中部となるとほとんど詳細情報がなくお手あげ状態でした。
 ベトナム政府の産業政策の基本は各地の特性を生かしながら地域格差の出ない経済発展を考慮しており、ここへ来て一気に中部ベトナムへの投資を促進するという事は北部、南部がすでにバブルに差し掛かっていることの裏返しのようにも思えます。また、最大の目玉は石油ガス公社による初の石油精製所が中部のズンクワットに建設されることです。ベトナムは産油国ですが、いままで精製をシンガポールに依存していました。この精製所が2009年に完成すれば近い将来国内で石油ガス、ナフサなどを生産できるようになり、石油化学関連プロジェクトが次々と発達する基盤ができます。
 拡大メコン川流域のインフラ整備プロジェクトのひとつである東西回廊の起点がダナンであり、この回廊はラオス、タイ、ミャンマーを結ぶことからこの地域全体の物流拠点としての発展も期待されます。地下資源や農業分野にも可能性を秘め、何といっても最低賃金が月約45米ドルという安さも魅力です。
 しかしながら、現在の日本企業の投資案件のうち中部へは全体のたった6%(件数ベース)にしか過ぎず、多くが製造業です。一方、米国、韓国など外国企業はリゾート、観光・娯楽関連産業への投資が目立ちます。ホアクオン新工業団地(500ha) の開発投資に深セン市の開発区が関心を示しているそうで、「ぜひ中国よりも日本に投資をお願いしたい」 とセミナーの席上でベトナム側から嫌中をにおわせる発言が飛び出しました。
 外国企業は含み益狙い、コスト削減を徹底して追及しパイオニア精神を発揮するものの、日本企業はリスクを回避し、安定操業や駐在員の生活環境をまず重視する傾向にあります。そんな中で頼もしく思えるのは日本の物流会社が上記の東西経済回廊経由でハノイとバンコクを結ぶ「メコン・ランドブリッジ」を開発、7月に試走を行なうそうです。別の日本の物流会社は深センとハノイを結ぶトラックの定期便をスタートさせています。実は昨年の春、後者のハノイ支店を訪問しましたが、当時は中国―ハノイ間を試走中でそれにまつわるいろいろなお話をお聞きしました。東南アジアでよく見かける近代的なオフィスビルの一角にオフィスがあり、社旗が額縁のように掲げられていました。静止しているその旗が今にも風にはためきそうな活気を感じたと同時にベトナム人のスタッフたちはとても礼儀正しく、にこやかだったのを今でも覚えています。長らく紛争の多かったメコン川諸国をひた走る彼らのトラックはまさに平和と繁栄をもたらす使者です。
河口容子
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