厳寒のワシントン、200万人の国民が感動と期待を持って見守る中、バラク・オバマ氏が米国大統領に就任しました。オバマ氏は夫人がアフリカ系米国人ということもあり、アフリカ系にアイデンティティを置いているようですが、ケニアからの移民を父とし、母は白人で、ハワイに生まれました。日本で言うところの「ハーフ」です。母の再婚相手がインドネシア人のためジャカルタで暮らした経験もあります。インドネシアは大国であり、歴史的には中国とインドの文化がぶつかり合う所で多様性の宝庫です。ビジネス界で活躍している華人たちは仏教やキリスト教がほとんどですが、国民の太宗はイスラム教、日本人に人気のあるバリ島はヒンズー教です。このアジアの複雑さと奥深さの理解と体験が今後のアジア政策に反映されて来るような気がします。
ミシェル・オバマ夫人は早くも類まれなファッション・センスの持ち主として注目されています。同じように夫以上に実力があると言われたヒラリー・クリントン国務長官がファースト・レディ時代はキャリア・ウーマンらしいファッションの印象が強く、ローラ・ブッシュ前大統領夫人は南部の良き家庭人という印象のファッションです。さて、アフリカ系米国人のミシェル・オバマ夫人は何を着る?歴代のファースト・レディがパステル色を好んだのに対し「褐色の肌にはパステルは似あわないだろう」という声や「ファースト・レディのファッションは米国人のお手本だから白人に受け入れられないのも困りもの」という声もあったと聞いています。
就任式の黄色のドレスとコートは「希望の色」それもテレビで見る限り抑えた黄色でエレガントかつ厳粛な雰囲気です。彼女の長身を包んだ黄色から国民へ「希望」のメッセージを発信したわけです。このデザインはキューバ系米国人、そしてワン・ショルダーのイブニング・ドレスは台湾系のデザイナーで、靴はジミー・チュー(セレブに人気のマレーシア人デザイナー)、教会で着ていたドレスは白人デザイナーでしたが日本の鶴をイメージしたものだそうです。鶴は千羽鶴のように祈りを運ぶ鳥でもあり、それを知っていたとしたら実に心憎い演出です。また、米国の通販ブランド J・クルーの愛用者としても知られており、自分に似あうものや好きなものと言うより、一般庶民やマイノリティへの配慮がそこかしこにうかがわれ、「世界の公人」としての決意が現れているように思いました。
世界のファースト・レディではサルコジ大統領夫人のカーラ・ブルーニさんが元スーパーモデルだけあってファッション・アイコン(お手本)としては有名ですが、ミシェル・オバマ夫人が今後どんなメッセージをファッションから発信していくのか大変楽しみです。
一方、日本の首相夫人のファッションは出番が少ないせいかあまりマスコミでも取り上げられる機会がなく、アジア全体では女性の大統領や首相がかなり出ているにもかかわらずファッション・アイコンとして有名な人がいないのはなぜでしょう。やはり、アジアではまだまだ控えめな女性像が求められているのかも知れません。特に日本では夫人同伴というイベントがほとんどなく、私は招待されてもビジネスマンとして行くわけですからビジネス・スーツで出席するわけで、ドレスも和服も巻き髪も一切縁のない世界にずっと住んでいます。
河口容子