「トレーダー」というと最近は金融関係者に使われることが多いように思われますが、長く貿易の世界に住む者にとって「香港トレーダー(貿易人)」は国際人としての憧れも含めた懐かしい響きを持っています。
とはいえ香港トレーダーの基本は「担ぎ屋さん」。たとえば日本へ来る時はブランドもののバッグを持って来て日本で売り、出張旅費を捻出、帰りは香港や中国本土で売れるものを買って帰りまた儲けるというスタイルです。中小企業経営者で中流以上の生活をしていてもこんな事をいまだにやっている人も多い。商機あらば労力は惜しまず、という感じです。さすがに私の香港パートナーたちは富裕層ですのでそこまではしませんが、日本へ来るのにディスカウント・チケットを必死に探し、良いホテルをいかに安く予約するかにも神経を使い、当然私も時にはお手伝いするのですがどれだけ安くなったか自慢ひとしきり。とここまではかなりケチくさいですが、ビジネス・ギフトは豪勢にというのが中国流ですので、お土産やご馳走して下さる場合は大盤振る舞いで、これぞ効果的なお金の使い方と変に納得してしまいます。
また、少しお金と地位があれば、人脈を利用してサイド・ビジネス的にトレーダー業に手を染めたがるのも香港人の特徴かも知れません。日本人のように専門分野を決めて戦略的にビジネスをするのではなく、売れそうと思えば商品は何でも扱います。要は売買差益が出れば何でも良いのです。香港のビジネスパートナー向けには婦人服、紳士服、婦人靴、雑貨、食器などの扱いを経て、今は日本酒、先日は業務用の冷凍庫まで輸出しました。ここ 6-7年で仕入れ先は50社以上にのぼると思います。計画性はゼロ。商品に思い入れがあり、頑張って時間をかけて売ってみようという気もゼロ。彼らにとって株で儲けるのか、不動産で儲けるのか、ビジネスで儲けるのかという投資の選択肢のひとつなのでしょう。
香港や中国本土ではいまだに日本製粉ミルクの需要が大きいらしく、2008年11月27日号「粉ミルクと幻の酒」で触れたように日本産業構造の問題や市場性の問題もあるので日本で中国向けに増産するのは難しい、日本から技術を学んで中国の企業が安全な粉ミルクを作るべきだと言うと「ふん」とばかりに話が途切れてしまいます。本職は学者である香港パートナーがそういう議論にまったく興味を持たないのは不思議です。日本の総合商社なら「なければ作れ」とばかりにメーカーに投資をし、技術導入までやります。そもそも私は売買の繰り返しには関心がなく、時間がかかってもものづくり、仕組みづくりのほうが自分の工夫や粘りを生かせるので残念に思う瞬間です。
こんな論議もありました。「日本のブランド化粧品を輸入したい。」とパートナー。「そのブランドは中国でも生産されていますし、同じ商品なら製造方法も同じはずです。」と私。「そんな事は百も承知だが、皆日本製をほしがるのだよ。」売り先は輸入化粧品専門店と思い少量多品種をそろえている問屋を探したところ、1商品最低 1,000個はいるね。大手小売チェーンだから。」「そんな大量なら正規代理店から買うのが筋ではないでしょうか。」「正規代理店から買うといろいろ規制があるから嫌だと言っている。必要なものを必要なだけ買いたいし、価格も自由につけたいから。どうして売れるのに日本のメーカーは売らない?工場から直接買えないの?」「工場は本社の許可がなければ製品を製造もしませんし、売りもしませんよ。」
ここではたと気づいたのは、日本はメーカー側の観点から製品が動いていることです。特にバブルの崩壊以降は生産調整、在庫調整がきびしくなっています。成熟化した市場では商品が不足気味のほうが存在感があったりもします。一方、香港、中国は消費者中心に製品が動くのでしょう。ものがなかっただけに購買意欲に勢いを感じます。その欲を満たすために偽物が続出するのも自然の摂理なのかも知れません。
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河口容子