広州での日程を終え、今度は広州東駅から列車で香港へ戻りました。Hung Hom駅には商談に向かう先の企業の運転手さんが出迎えてくれました。行ったこともない企業へ会ったこともない人が連れて行ってくれる、これは海外出張ではよく経験することですが、「搬送」という言葉がなぜかぴったりする気もしますし、どういう商談の内容にするかあれこれ最後のシミュレーションを行う貴重な時間でもあります。
私の香港でのビジネス・パートナーは投資家の兄弟で私とまったく同年代、しかも一代でそこまでになった人たちです。私は一緒にビジネスをスターとしてから半年もたたないうちに彼らの家族並みの扱いになってしまいました。時には、私のために仕事のステージを投資して作ってくれているかのような錯覚さえ持ってしまいます。同時に日本人のみならず彼らに群がって来るビジネスマンを山のように見て来ました。そのほとんどは、見事切捨てられています。その理由を私なりに分析してみました。
華人社会は「親分子分」という整然とした流れがあります。「あの人のボスは誰」という認識が必ずあります。それは所属する会社組織のボスであるとは限らないようです。親分には何でも相談することです。「○○さんからこんなビジネスを持ちかけられたがどう思うか」など。日本人のビジネスマンは自我が強いというか、自分の損得だけで勝手に○○さんとビジネスを始めてしまうでしょうが、これでは信頼を失います。
「個人企業」華人社会ではほとんどがオーナー企業です。お金の使い方、回転のさせかたには必ずポリシーを持っています。ぶら下がって儲けのおこぼれをもらうような人や言われたことしかできない人は失格です。いかに儲けさせてあげるかが気に入られるキーです。日本の大企業はたいてい経営者に至るまでサラリーマンのせいか、「会社のお金だから」という安易さや企業経営について評論家じみた事を言いたがる人がたくさんいます。これも禁物です。特に私のパートナーは兄は学者、弟は弁護士ですから偉そうなふりをしたところですぐへこまされてしまいます。
「コミュニケーション能力と守秘義務」これも個人企業のせいですが、戦略的なことはごくごく内輪しか知りません。通訳を介さなければコミュニケーションの取れない人は中へは入れてくれません。早朝あるいは夜中まで忙しい中をぬって突然ミーティングがあったりしますから当然と言えばそれまでですが。スタッフあるいは関係者の間ではどこまで戦略的な話に関与できるかで、序列を判断しているようです。
そして「よく働くこと」。私のビジネスパートナーは朝8時に起き、夜2時まで土日も休まず仕事をしています。それも日本のサラリーマンのようにオフィスで新聞を広げたり、お茶を飲んでいる暇などいっさいありません。イノベーションの連続で、数時間前の方針が急に変わることもしばしばです。そういう時はあわてず騒がずフォローできる忍耐力とフレキシビリティも大切です。
難関であった商談をたった一人で切り抜け、九龍側からフェリーでセントラルに着いた私を迎えに来たのは弟の方で内装が白い革張りのジャガーでした。会員制のクリケットクラブに駐車し、そこから歩いて上海蟹を食べに。5年間で60%も資産価値が目減りしたという景気が悪い香港ですが、100万ドルの夜景とシーズン入りしたおいしい蟹に1日の緊張も思わずほぐれた一瞬でした。
河口容子
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