[053]第一印象

 私は自分の会社を作り、商権ゼロからスタートしました。取引先はほとんど自力で初対面から開拓したものです。大企業に勤務していれば、多少第一印象が悪かろうが、何らかの理由でその日不機嫌であろうが、会社の看板や肩書きで最低限の信用を得ることは可能です。理屈では誰でもわかっていても在職中会社の看板のありがたさを感じることは少ないと思います。いったん独立してしまえば、第一印象がまさに勝負、自分のビジネスチャンスになるかどうか、あるいは相手を信用していいかどうかの分かれ目となります。
 いつも心がけているのは、相手の立場にたって、どんな情報がほしいのかを考え準備することです。したがってお渡しする会社案内も相手によってまた取り組む内容によって添付資料の構成をいつも変えています。そして、相手の組織や商品に対し、好意をもって積極的に質問することです。誰でも自分の所属する組織や商品、サービスに対し関心を持ってくれればうれしいものです。これは印象を良くするためのお世辞ではなく、相手からの応答はこちらにとっても今後の取り組み方を決める大事な情報となります。
 昨年、広州の量販店のバイヤーたちと会ったときのことです。たまたま広州に出張中であった知人の流通コンサンルタントが彼らにレクチャーをして意見を聞いてみたいというのでそういう機会をアレンジしました。彼としてはクライアント獲得のチャンスでもあります。彼は大学院でもマーケティングを専攻し、日本を代表する流通業3社に籍を置いた理論派のコンサルタントです。結果は見事失敗でした。バイヤーたちはもっと現場で日々役に立つアドバイスがほしい、独善的な態度が好ましくない、とその第一印象を評価したようです。彼自身も後日、国家機関から招聘され中国にわたって何年も仕事をしてきたため、自信や責任感がいつの間にか不遜な態度に変わっていったと反省していました。


 一方、彼のレクチャーの間、バイヤーのトップと別室で商談をしていた私ですが、他のお店を視察したいという私に上記のレクチャーを終えた女性バイヤーが続々と自主的に参加しました。そして自分の仕事に対する思いやどういうディスプレイにしたら良いかなど熱心に聞くのです。通訳に入ってくれた人も英語は片言で、私もしまいには単語の羅列、ジェスチャーというありさまでしたが、こういう本音トークはどこの国に行ってもお互いに非常に好感が持てるものです。
 また、ある一言で取引をやめた相手がいます。日本人の女性の会社経営者ですが、彼女が懇意にしている企業を紹介するので、ビジネスができたら自分も何らかの役割分担をするので彼女の会社へ手数料を払ってほしいというものです。私は彼女の経験や専門知識を評価していましたので同意をしました。その企業にはじめて行くのに同行してくれた日のことです。「今日はいきなりビジネスにはならないのはわかっているけれど、私は交通費も日当も出ないのだから食事くらいおごってよね。」もともとそうするつもりだった私にその言葉はカチンと響きました。ビジネスを立ち上げるまでというのは経営者にとって投資の時期です。アルバイトやパートタイマーと違い行けばお金になるわけではありません。私にとってもそうですし、彼女にとっても同じはずです。交通費や時間がもったいないなら同行しないという方法もありますし、食事と相殺したらまあ満足という発想もお粗末で、そこまで困窮しているのかという不信感とその語調にえげつなさを痛感しました。案の定、彼女は些細な金銭トラブルで次々と顧客をなくしています。金銭感覚がルーズという印象は信用上大マイナスですがお人好しという面もあります。逆に自分の利益だけ主張して強制するのは信用の上でも人格の上で大マイナスです。
河口容子
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