[069]スイート・ドラゴン

 私の部屋にドラゴンのぬいぐるみがちょこんとあります。ちょうど辰年の2000年にジャカルタの米国系のレストランで景品としていただいたものです。このレストランでは辰年にちなんで、お客さんにアジアの国の名前のついたドラゴンの縫いぐるみを配っていました。どこの国のドラゴンになるかは開けてみてのお楽しみです。私たちに当たったのは台湾でプロスペラス・ドラゴンというニックネームがついていました。当時、すでに台湾はIT産業で世界の注目を浴びていましたので、プロスペラス、つまり「繁栄の」という形容詞がぴったりだと思いました。「商売繁盛するように持って行ってね。」と友人である華人の会社経営者に持って帰ってもらおうとしたのですが、「いいや、きみの会社に持って行かなくちゃ。」と言われ、起業したばかりの私がこのドラゴンをもらうことになりました。
 その他の国のドラゴンも言いえて妙、もちろん良い意味での形容詞がついていたのですが、この日私は冷房病で絶不調、友人たちとビジネス・ランチの間、紅茶を少しずつ飲みながらうたたね状態で、各国が何と形容されていたか記憶にありません。ひとつだけ覚えているのが日本でスイート・ドラゴンというニックネームでした。「そうさ、日本はスイートだよ。日本大好き。」と友人。スイートは味が甘いという意味もありますが、魅力的な、美しい、かわいらしいという意味もあります。この友人は両親ときょうだいはオランダに住み、本人もニュージーランドに永住権を持っています。世界中とビジネスをした経験の中で日本をそう思ってくれたのはありがたいことです。


 このスイートですが、俗語で「扱いやすい」という意味があります。最近、ある雑誌で「日本人はおぼこい」と発言しておられる方がいて思わず苦笑いをしまいました。日本語で言うところの「甘さ」を日本人に感じるからです。最近話題になった「オレオレ詐欺」をはじめ、こんなに詐欺事件が横行するのも、悪人が増えたと言えばそれまでですが、いとも簡単に引っかかる人がいかに多いかです。実際に自宅にも「オレオレ」電話がかかってきましたが、私には名乗らないという無作法さにむちゃくちゃ腹がたっただけでした。また、見知らぬ人からメールや電話で仕事に関するよろず相談をいただくことがありますが、あかの他人が無料で自分に親切に相談にのってくれると思える甘さが不思議であると同時に不審さえ覚えます。
 戦後の焼け野原から経済大国へ成長したのも、他国にあるような民族紛争、宗教問題、独立問題など日本はいっさい知らず、軍事的には米国に守られ、行政や会社に守られ、経済活動に専念できたからではないかと私は思っています。政府や会社が何とかしてくれる、という依頼心の強さや自分が悪いことをしなければ他人も自分に悪いことはしないだろうという性善説は、この国際化時代ではいいカモになる可能性があります。 
欧米、そしてアジアの人たちと長年一緒に仕事をして来ましたが、欧米人の体力と理論一辺倒には日本人はついていけず、中国人(中国のみならず東南アジアのビジネスを支配しています)のすばしこさと気力にも圧倒されるものがあります。スイート・ドラゴン、しなやかでいて強いイメージがあります。取り戻しましょう。本来日本人が持っていたものですから。
河口容子