4月からパートナーとなった香港の国際経営戦略コンサルタント会社の D氏(彼は代表パートナーなので上司とも言えます)は、2008年11月 6日号「マナーブームと可愛げ」の終わりのほうで触れたように実にメールの返信が早い人です。おかげでしばらく返信が来ないとメールが届いていないのではないかと確認をします。案の定、届いていません。香港はウイルスのメッカとあってプロバイダーのセキュリティ・チェックが厳しいようです。
先日、 D氏がバンコクに出張し、 5通くらい一切返事がないものの「出張中だから忙しいのだろう」「帰ってからと思いゆっくりしているのでは?」と勝手に思っていたところ「香港に帰って来ました。最近あなたからメールをもらっていないけど、メールをくれなかったんだろうか、それとも受け取れなかったんだろうか?」というメールが来ました。この配慮は素晴らしいと思います。
「私からメールがなくてバンコクではゆっくりできたでしょうね。香港に帰ったらメール魔の事を思い出したんですか?」「そんな事はないよ。いつも気にしているよ。メールがない生活なんて考えられない。どこに行ってもちゃんとチェックするんだから。」そういえば先日広州のマクドナルドで雨宿り中の D氏にメールでえんえんとつきあわされたことがありました。
PCを出張に持っていく人は本当に偉いと思います。私はミニノートPCも持っていますが洋服と化粧品が優先なのでPCはいつもあっさり切り捨て。その代り帰ってくると何百ものメールがにぎにぎしく、時にはにくたらしく出迎えてくれます。
まさにメールは私たちのような職業にとって天からの贈り物です。相手一人につき 1日 5往復くらいする日はざらですし、大量の資料やデータを圧縮して添付することもあります。このやりとりを電話や FAXでやっていたら通信費で破産するに違いありません。契約書や請求書といったサインの必要なものも PDF形式にして電子署名をして送れば郵便代と時間も節約できます。
私が会社員になった頃はメールも FAXもなく、海外の通信手段は電話かテレックス(電報)か郵便でした。新人として配属されて与えられた仕事のひとつが先輩たちがテレックスに対しきちんと返事をしているかのチェックでした。先輩に対し「早く返事を出してください」と言うのは新人の分在では抵抗があったのですが、上司は大阪弁で「返事をしなければ、受け取ったのか受け取っていないのか、本人がいるのかいないのか、わからんやろ。なんぼ、会議や出張前だからとほったらかしにせんと 明日返事します とか 1週間待ってください と返事しなさい。たった 1行のことや。どんな事があってもほったらかしは 2日まで。」と怒り続けるのでした。もちろん不在の先輩たちに代わって 1行のテレックスを出すのは私の仕事でした。
外国人はどうやらこのマナーを心得ているらしく返事は結構早くいただけます。日本人については二極分化で矢のように返事が来る方と電話で催促しなければ永遠に返事が来ないタイプにだいたい分けられるような気がします。普通の書面よりメールはくだけたツールと思うものの、やはりビジネス目的ならある程度のフォーマリティを備えた対応をしていただきたいものです。
私はメールを多用しますが、万能主義ではありません。メールはセミプライベートの目的までで、プライベートはすべて手書きで郵送しますし、いただくのも手紙が好きです。手で書いて、切手を貼って、ポストに投函するという作業と時間を経るせいか、相手の心が文面よりも行間に匂っているような気がするからです。これはメールがどんなに進化しても勝てない部分でしょう。
河口容子
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「過ぎたるは及ばざるが如し」と言いますが、ビジネスの場で「着る」ものはその場の空気を想像してジャスト・フィットしたものを準備しなければなりません。「過ぎたる」も「及ばざる」も恥をかく場合があります。男性はスーツがあればほぼオール・マイティなのに比べ、女性にとっては悩みの種です。
「過ぎたる」の例です。東京で香港貿易発展局の新年祝賀パーティをかねたセミナーに行った時の事です。出席者はほとんどがビジネス関係者で、女性はまばらでしたがビジネス・スーツ姿にアクセサリーをつけた人がほとんどでした。そこへ威風堂々と現れたのは花嫁が披露宴で着るような大きく裾の広がったロングドレスに華やかに髪を結いあげた中年女性でした。オペラ歌手か特別ゲストかと思いきや出番は一切なし。「デビ夫人みたいだね。」とある中年ビジネスマンは苦笑し、多くの出席者は彼女に好奇心と非難の混じった視線を投げかけていました。彼女は次第に自信を失い誰とも話すこともなく帰って行きました。どういう理由でそのようないでたちになったのかよくわかりませんがかなりの費用と時間をかけて大失敗した事は間違いありません。
「及ばざる」の例。ベトナムで商談会に立ち会った時のことです。日本から買い付けミッションでやって来た若い男性の二人連れはまるでバック・パッカーのような服装でした。政府機関主催の商談会ですからベトナム側は皆ビジネス・フォーマルで女性の中にはアオザイの正装で臨んだ人もいました。たぶん咎める目をしていたのでしょう。私をベトナム政府が招聘したセミナーの講師と知っている彼らは走り寄って来て「こんな格好で着てしまってすみませんでした。こんな立派な会とは想像もしていなかったので、いつも観光がてらに買い付けをするようなつもりで来てしまいました。」と謝りました。こんな時、男性は相手に対して失礼をしたという詫びが多く、女性には自分が恥ずかしいから照れ隠しに詫びる事が多い気がします。
TVの朝の経済番組を見た時です。コメンテーターとして女性の大学教授が出演していましたが、オレンジとも赤ともつかない悪趣味なスーツ姿に、知性の片鱗すら感じられませんでした。おとなしそうで古風な美人顔の先生にはもっと似会う服があったはずです。この番組の司会は若い女性アナウンサーで、ダークなスーツ姿もあれば夜会服のような姿で現れることもあり、自分の若さと美しさをひけらかすかのようです。先生が負けたくない、と思う気持ちは同じ女性として理解はできるものの、自分の与えられた役割や自分の強みである経験や知性をアピールするという観点から考えれば、マイナス効果どころか、女性アナウンサーとファッション対決をしようというあさましさまで垣間見えた服選びでした。
実は先日アジアビジネス情報誌から取材の依頼を受け、写真を撮っていただくことになり、めったにない話ですので空気を想像するのに苦労しました。 5月号ということで新年度のあらたまった感じを出すために選んだのはミッドナイトブルー(留紺)の無地ジャケット。一見黒にしか見えない紺色です。中にはオフホワイトの総レースの襟なしブラウス。 5月の新緑をイメージし、翡翠グリーン系の 5連の細いネックレス。 1連ずつデザインや素材が異なるものです。この辺に少しだけ流行を取り入れ、リクルートスーツとは少し違う着こなしにしてみました。大好きなイヤリングはあえて封印。老若男女の読者から見て、派手でもやぼったくもならず、国際ビジネスコンサルタントのイメージと一致するものではないか、という計算です。全部手持ちの長く使っているものばかりです。着なじんでいるもののほうが着る人との一体感があるからです。こういう時にはデパートを走り回って少しでも自分を良く見せようと必死に新しい洋服を探す人がほとんどでしょうが、そういうのが気恥ずかしくもあり、面倒くさい私の苦肉の策がこの結果となりました。
河口容子
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