[257]続 華僑のDNA

2003年12月18日号「日本人の知らない日本人歴史 (2)」に出てくる在日中国人 3世の知人と久しぶりに連絡を取り合いました。彼は元取引先の担当者でしたが、今は兵庫県で実家の中華料理店を継いでいます。初めて会ったのは数年前ですが、その際、別に黙っていてもいいのに彼のほうから中国人で中国籍であることを切り出しました。私は「日本人は閉鎖的だからお祖父様やお父様はさぞ苦労されたことでしょう。ごめんなさいね。」と謝った記憶があります。「祖父や父は大変だったかも知れませんが、おかげで僕は別に何の差別もなく育ちましたし、日本の大学へも行けたし、福建にいたままではこんな良い生活はできなかったと思います。」「今は中国は急成長しているから福建にいても大金持ちになったんじゃないの?」「そんなことありません。残っている親戚を見ればわかりますから。」と笑いました。
彼は両親も話せなかった中国語を日本で習い、奥さんは上海の出身です。新婚当時は上場企業の食品メーカーの寮に住んでいたそうです。そのメーカーに勤務していた女性の管理職の知人がいますが、学閥のなかなか厳しいところで、ましてや国籍の違う夫婦、奥さんは当時日本語もあまり話せなかったので苦労したのではないかと聞くと「そういう中だったからこそ、嫁さんは日本語や日本の習慣が身についたと思います。その点は人と上手にやっていけるタイプだから。」彼は日本で生まれ育っているせいもあり、日本人にしか見えませんが、内面は実にしっかりとしていて、前向き、感謝の心を常に忘れません。現在お店のリニューアルを計画中でそれに伴い店名も変えるようですが、英文名は私も一緒に考えました。
一方、2004年10月 1日号「変わり行く華人社会」と2005年 6月30日号「華僑の DNA」に出てくるインドネシアからニュージーランドに移住した華人の友人にも変化が起きつつあります。息子が大学を卒業し働き始めたがオーストラリアに移住するというのです。幼いときに両親と弟妹がオランダに行ってしまい、インドネシアでひとり祖母に育てられた彼は友人を大切にし、奥さんと子ども二人はまるで宝物のようでした。それをいくら近いとはいえ他国へ惜しげもなく出すというのはまさに華僑の DNAとしか思えません。
彼のニュージーランド移住物語も紆余曲折があります。まず家を2軒買い、1軒は家賃収入源とし、もう1軒も半分貸しています。これで新天地での生活費には困りません。次にピザ・レストランを始めたものの店舗物件をめぐるトラブルに巻き込まれ挫折。ジャカルタに残したビジネスは何とか順調に行っているようで「いざとなったら故郷に帰れるよう足がかりを残すように」という私のアドバイスはどこかで生きたのかも知れません。ニュージーランドで始めた貿易の仕事は「もがき、あがいている最中」とのことで気持ちの余裕のなさがメールの行間ににじんでいる気がしました。別に事業に失敗したわけでもないのにジャカルタでのセレブな暮らしをかなぐり捨て、50歳を目前にしてゼロから出発しなおそうとした本当の理由は何だったのか。繊細な心遣いと優しい面差しの彼からはそんなたくましさがどこに潜んでいるのか想像もつきません。彼はインドネシア華僑の 5代か6代目ですが、華僑の血が騒いだのでしょうか。
河口容子

[248]パスポートの話

 総合商社に入社した時に「パスポートは商社マンにとって必需品、有効期限が切れていて出張できないなどということがないように」と教わった記憶があります。当時は米国への入国もビザが必要でこれは 5年間有効でしたが、必ずしもパスポートの有効期限とは一致せず、パスポートは有効でも米国へのビザが期限切れであることに直前まで気づかず、急遽代わりの人が出張したという笑い話も聞いたことがあります。また、海外出張が頻繁にある人は、パスポートが休んでいる間(つまり絶対出張がなさそうな期間)に更新をするというのが常識でした。
 さてさて、私もいよいよ10年パスポートの有効期限が来年の 1月上旬となり、更新の手続きをしました。国によっては有効期限が半年以上ないと入国できない所もありますので、頻繁に海外に行かれる方は「あと半年」という時期を目処に上述の「パスポートが休んでいる間」に更新をされておくことをおすすめします。いったん期限が切れてしまうと申請に必要な書類を初回と同じようにそろえねばならず、申請や受領のために出向く時間も取りづらいほど忙しい方はなおのこと早め早めに準備が必要です。
 更新は有効期限が 1年未満になった場合、余白がない場合、パスポートが損傷している場合、IC旅券に切り替えたい場合は今持っているパスポートに必要書類を添えていつでも申請できます。
 2006年 3月20日からIC旅券の申請が開始されており、私も初めてIC旅券を今回手にしました。IC旅券とは偽造をより困難にするために本人の確認情報をICチップにおさめたものとアンテナが入った板紙のページがパスポートの真ん中にあります。パスポートの最初の顔写真のページが改ざんされてもICチップの情報で照合ができる仕組みとなっています。以前のパスポートよりちょっぴり厚くて硬くなり、ICチップの保護のため保管場所にも注意が必要になりました。
 ICAO(国際民間航空機期間)の勧告に基き、顔写真の基準も変わりました。頭のてっぺんから顎先までが34ミリ±2で頭の上の余白は4±2、 顔の中心が写真の真ん中に入っていなければなりません。以前に比べ写真全体に占める顔の比率がかなり大きくなりました。これがパスポートに転写されるとさらに顔は拡大され、首もほんの少ししか出ません。真面目な表情の真正面の顔でしかもほとんど顔のみの写真というのは「実物より美人に写っていないと気がすまない」女性たちにとっては頭の痛い問題です。
 元来、どんな表情で写っていようがあまり気にしない私ですので、申請に行った都庁内の証明写真コーナーで撮影をしました。簡易スタジオでスタッフが撮ってくれ、数分で出来上がります。万が一目をつぶってしまっても撮り直してくれるので安心です。自分はまっすぐに座っているつもりでも「左の肩先が 2センチくらい前に出ている」「顔をもう少し右に向けて」などと位置を修正されました。ふだんより入念にメイクをしていったのですが、フラッシュで色はほとんど飛んでしまいます。色よりはむしろ顔の骨格がはっきりわかる感じです。
 手元に残っている30年間以上の証明書写真の顔はなぜかいつも暗く寂しげな顔です。ふだんは天真爛漫、おもしろい、とよく他人には言われるのになぜそんな顔になるのか不思議でした。笑顔やしぐさでは隠しきれない何かが証明写真には現れているような気がしていました。ところが、今回初めて晴れやかな表情に撮れ、そのせいか10年前のパスポートの写真よりはるかに若いのです。年を重ねるにつれ悲しい顔にだけはなりたくないというのが人生の目標でもあったので私にとっては大きな喜びでもありました。10年後のパスポートの写真も明るい表情ができるよう充実した毎日を積み重ねながら過ごしたいと思います。
河口容子
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