[246]みんなのお出かけ先

 ゴールデンウィーク、夏休み、年末年始など長期休暇シーズンになると必ず出る話題は「今年人気の海外旅行先」。でも、年間を通じて、出張も含めていったいどのくらいの人がどこの国へ行っているのか興味をもたれたことはありませんか?そして他の国の人はどこへ行っているのかも興味しんしんです。
 2004年の統計を見ますと、まず日本人の渡航者は年間2100万人で、平均すると全人口の5人にひとりが年1回は海外へ行ったことになります。最も多いのが北南米で全体の20.5%です。次に多いのがアセアン諸国で16.4% (国別ではタイがダントツに多い)ついで中国の15.8%、ヨーロッパ15.3%、韓国 11.6%で、香港が3.5%と意外に少ない数字です。いずれにせよ東アジアと大洋州というくくりでは 62.2%となり、仕事も遊びも安近短。
 では最近急増していると思われる中国の渡航者はというと人数は1740万人強で人口の多さから考えると少ないかも知れませんが、誰でも海外へ出られるお国柄ではないだけに多いと言えば多い。行き先の 44.6%が香港で、シンガポール5.1%、タイとベトナム各4.5%、韓国3.6%、日本3.5%、マレーシア3.2%の順となっています。物価の高さも敬遠される原因でしょうが、この統計を見る限り中国人にとって日本はアジアの普通の国でしかありません。なぜベトナムへ行くのかと思われるかも知れませんが、華南からハノイまでは飛行機で 2時間ほど。ハノイの 5つ星ホテルで昔の農協ツアーのような中国人一行を見かけ唖然としたことがありますが、そのような方々はまだ日本には出現していませんのでこの数字は正しいと思います。
 渡航人数がダントツに多いのは米国で7050万人、日本の 2倍の人口と考えれば旅行大国と言えます。北南米が 65.4%で、たとえばカナダ、メキシコなどは同じ経済圏、国内旅行感覚で行けますので日本人の海外渡航のわずらわしさと比較するのはいかがなものか、と思えるほどです。ついでヨーロッパ22.5%。
 意外に多いのはイギリスで6440万人。七つの海を制覇した大英帝国だけのことはあります。しかし、行き先は78.7% がヨーロッパで次に北南米が 10.3%、アジアなんて目ではないようです。
 韓国の統計数字で意外に思ったのは 82.2%が東アジアと大洋州に集中し、北南米、ヨーロッパへ行く人の比率は日本の半分以下です。韓国ドラマではフランスへ行く、ニューヨークへ行くなどというストーリーがやたら展開しますが、あれは一種のステータス・シンボルにも通じる憧れなのでしょうか。
 東南アジアの先進国シンガポールでは67.4% がマレーシア。この国内旅行もできない小さい都市国家で一歩踏み出せばマレーシア。これを統計に入れるのはちょっと不公平なような気もします。東アジアと大洋州で 97.4%を占めるのでお金があり、英語国民の割には引込み思案。インドネシアの40.5% がシンガポール。これも近いのとインドネシアのお金持ちたちはシンガポールの金融制度を活用したり、重篤な病気はシンガポールで治療を受けます。女性の起業家でシンガポールにもお店を構える人を何人か知っています。
 さて、日本によく来てくださる国民はどこか、と言うとこれは2005年の統計がありますが、韓国が 175万人で26.0% です。昔から福岡の空港ロビーには修学旅行を含めたくさんの韓国の方を見かけましたが、近いこと、歴史的なつながり、経済レベルや文化が似ておりリピーターも多いことと思います。次いで台湾 128万人。中国65万人。アセアン52万人。香港30万人。米国とカナダを足しても 100万人に満たず、ヨーロッパ全体でも80万人です。なぜか今まで日本の観光資源は外貨獲得手段の産業としてスポットライトを浴びず、欧米人向けのオリエンタリズムに特化していたような気がします。急成長が続くアジアの中で取り残されないためにも「日本ならではの良さ」を見つけ、伸ばしていくこと、アジアの友人たちへも積極的に発信していくことが観光のみならず必要ではないでしょうか。
河口容子
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[242]OECDが推進する中小企業の国際化

 先日、OECD国際カンファレンス「グローバル・バリュー・チェーンにおける中小企業の役割強化」が 2日間にわたり東京のホテルで開催され、最終日だけ出席しました。
 まず、OECDとは経済協力開発機構の略で現在30ケ国が加盟しており、欧米以外の国は日本、韓国、トルコ、オーストラリア、ニュージーランドだけです。世界レベルの生産工程再編により中小企業のビジネスチャンスが拡大する一方困難な課題ともなっている現状からOECDの中小企業作業部会が 3年にわたって調査、分析した結果の発表会がこのカンファレンスで、最後に「東京声明」が採択されました。
 初日は大企業と独立関係または提携関係にある中小企業が下請け業者やサプライヤーとして際立った存在となっている自動車産業、精密機械産業、ソフトウェア産業、観光産業、映画制作・配給産業についての分析が行なわれ、 2日目は政策テーマ別のセッションで、イノベーション及びテクノロジー、知的資産及び知的財産権、連携、ビジネス環境というテーマです。どの国においても企業の圧倒的多数が中小企業であり、中小企業の国際化はその国の経済発展や活性化と直結する課題です。
 私自身は国内外の中小企業の国際化をお手伝いするのが仕事ですが、日本の中小企業の国際化は、国内市場での競争力拡大のためのコスト削減を狙った海外生産および納入先の大企業の海外進出に伴うものが圧倒的に多く、自社製品を単独で海外市場に出すという点では非常に弱いと思います。私の会社は海外の政府機関や民間企業をクライアントに多く持っていますのでサービスを海外に売っていることになりますが、日本の同業者でもこのパターンは意外と少ないものです。
 最終日だけ出席した感想ですが、一口に中小企業と言っても規模や業態はさまざまです。莫大な費用をかけたイベントと推察する割には理論的には納得できても具体的なイメージがわいて来ないのは私だけだったのでしょうか。日本の国策としては、企業数を減らすというのが大前提で国際競争力を高めるために大企業同士の合併や業務提携が増加しているのはご承知のとおりです。これに伴いリストラされる人材の救済策と新しい産業の創出を狙いとして起業のすすめがありますが、特段の優遇策、支援策がある訳ではありません。中小企業は既に二極分化しており、ユニークな商品やサービスを持たず、小回りもきかないとなれば残念ながら消え行くのみです。また、中小企業間の連携という意味では同業者組合がありますが、一丸となって「守る」もののあとは懇親会レベルで、「攻め」には各社の足並みが揃わないという脆弱性を持っているような気がします。
 OECDの方が「中小企業の国際化」を「娘を芸能界に出す」という言葉にたとえて出席者の笑いを誘いましたが、想像もしなかった事が次々と起こり、リスクとロスを覚悟しなければいけない反面チャンスも無限にあるという意味だそうです。私の経験から言わせてもらえば、中小企業の国際化は芸能界へ行くかどうかより切羽詰った課題であるかわりに慎重に行なえばそれなりの成功は得やすい点が違うような気がします。
河口容子
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