[315]ジェンダー・ギャップ世界98位の日本

 毎年各国首脳や財界リーダー数千人がスイスに集う「ダボス会議」で知られる世界経済フォーラムが発表した2008年の世界のジェンダー・ギャップのランキングでは日本が98位との報道がありました。 130ケ国を対象に教育、保健、経済、政治といったカテゴリーでの男女格差を指数にしたものです。ちなみにトップ 3はノルウェイ、フィンランド、スエーデンで指数的には0.8以上です。確か1が男女まったく平等という意味だったと記憶します。
 スリランカ12位というのはちょっと不思議な気もしますが、米国が27位で0.7179、ロシア42位、タイ52位、中国57位で0.6878、ベトナム68位、シンガポール84位です。日本98位0.6434はケニア88位、バングラデシュ90位にも劣るというのは先進国としてはちょっと寂しいものの、当の日本女性たちが不満に思い、自ら動きださない限り、これは策を講じても無駄だと思います。
 教育、保健分野は差は少ないどころか、日本女性は世界一長寿というハイスコアをもってしても98位になるのは社会進出しても賃金や昇給の格差、政治参加率の低さにあるようです。私自身は能力と意欲のある女性に対する「機会均等」さえ維持されていればそれで良いと思います。あとは本人の意思と実力で勝ち取るのみです。
 私が総合商社に入社した頃は職種制度がなく、男子社員、女子社員という性別での区別しかありませんでした。雇用機会均等法の施行を前になぜか男子社員が自動的に総合職となり、女子社員が一般職と呼ばれるようになりました。そして申し訳程度に一般職の総合職への転換制度を作るに事になり、私は労働組合の人事制度諮問委員のひとりとなりました。専従ではありませんので委員の仕事は夜 7時頃から時には12時を越しましたが、私の注力したのは男性の総合職から一般職への転換制度(逆もなければ平等な制度と言えないからです)と評価の公平性に関する制度づくりです。
一方、社外では経団連の下部組織で働く女性のための経済誌の編集のお手伝いをしていました。「女性にも総合職の門戸を開放せよ」と単純に騒ぐ人たちもいましたが、私はこうやって外堀内堀から総合的に攻めて行くタイプです。今から考えると仕事だけでも暇ではないのによくそんなパワーがあったと思いますが、他人が作ってくれたものを選ぶよりは自分で創り上げるのが好きな性分ですので寝食を削ってでもやってしまいます。
 日本の大手企業は男性優位主義です。男性と同じ能力なら同じポストを得るのは絶対無理です。昇進するにも限界があります。では、自分で会社を作り社長になったら良い、と思い起業もしました。もちろん起業の理由はそれだけではありませんが、私は自分で決めて自分で責任を取るのが好きですから、会社員の頃より100倍くらいストレスがなくなったような気がします。
 日本のクライアントは女性の活躍できる公的機関と中小企業のみ。あとは海外のクライアントが圧倒的に多いのもフレキシビリティや伸びようとするエネルギーに魅力を感じるからです。おまけに何と世界で最低の部類の男女差別の国で社長をしているのだからどんなに優秀なのだろうと思ってもらえ、大変有利です。「天は自ら助くる者を助く」世界98位のジェンダー・ギャップですら皮肉にも私の競争力を押し上げてくれています。
河口容子
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[301]ジャパン・オフィス・サービス

 私の会社のユニークな仕事として「ジャパン・オフィス・サービス」というものがあります。日本企業と取引をしたい海外企業の日本代表事務所の仕事をそっくりやってさしあげます、というものです。
 そもそもは2002年10月31日「気がつけば華人社会の住人」で書いたように香港のビジネス・パートナーに端を発します。彼らは「日本の商品を香港や中国で販売し、逆に日本へも輸出をしたいので日本に会社を作りたいがどう思うか」と聞かれたのです。それまでは日本語の話せる香港人ビジネスマンを都度都度日本に商談に派遣していました。この香港人ビジネスマンとて自分の会社を持っている人ですから簡単に言いなりにはならないので歯がゆくなったのと香港人と直接取引するのには抵抗があるという日本企業もあったからです。
 私は日本でのオフィス賃貸料の高さ、人件費の高さ、また英語でビジネスができ輸出入の経験がある人が香港企業のワンマンオフィスに来てくれるかどうかも問題、それに日本の法律や税制も知らずしてどうやって管理するのか、と聞きました。それならば、事業が安定するまでは私がジャパン・オフィスとしての仕事を引き受けましょう。もちろん、専任で人が必要になればオフィスを借り、人を雇うことも責任を持ってお手伝いいたしますというおせっかいから始まった苦肉の策が華人の合理性にマッチしたともいえます。
 貿易にしても新規プロジェクトにしても、よほど大型のビジネスでない限り毎日毎日忙しいわけではありません。人を専属で雇ってしまったらその人が遊んでいても賃金を払っていかねばなりません。おまけにボスは海外にいる外国人となればろくな事はおきないでしょう。
 私のジャパン・オフィスは他にもメリットがあります。日本の株式会社ですから国内で一応信用はあります。海外、特にアジアの企業と直接取引するのに不安を持っていたり、貿易に不慣れな日本企業であったりしても私の会社と国内取引をすれば良いのです。おまけに輸出入手続きはもちろんのこと、リサーチ、営業、契約、会計、税務と会社として一通りのことはすべて英語で一人でこなせますのでコストと時間の圧縮が簡単です。1ケ月程度の短期間でもまったく気にしませんし、稼動時間だけ支払っていただくシステムも持っています。実態は業務委託契約と何ら変わりはありませんが、外国企業にとっても「ジャパン・オフィス」が手軽に持てるので期間限定のプロジェクトや少量の取引が不定的に続く場合は威力を発揮します。
 次に出てきたのは2006年 2月16日号「アジアの道義心」で触れたシンガポールのリサーチ・コンサルタント会社です。複数の会社のジャパン・オフィスを引き受けて問題はおこりませんか?とよく日本人に聞かれたことがありますが、すべて契約で線引きをしておきます。機密保持事項もありますし、この企業の場合、「中国、香港案件は香港のビジネス・パートナーを優先」というルールも決めましたが、私の会社がシンガポール政府から直接お仕事をいただくようになってしまい競合する部分もかなり出てきましたので心苦しく、ジャパン・オフィス・サービスについては契約を解除させてもらいました。
 シンガポール政府からは 9月、10月と 1件ずつシンガポールからのミッションの受け入れプロジェクトをいただきました。ただでさえオファーの雪崩と必死に戦っているので「もういらない」とばかりに「他に頼む所はないのですか」とたずねたところ「御社にはジャパン・オフィス・サービスがあるではないですか?商談が進んだらその後の面倒も見てもらえるでしょう?そこがいいのです。」このふたつのミッションで来日するシンガポール企業は20社を超えます。もちろん日本企業との商談が進むのを祈ってはいますが、ジャパン・オフィス・マネジャーの肩書きばかりふえるのもたまりません。
河口容子
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