パートナー

 冬の寒さが苦手な私でも唯一楽しみに観るのがアイス・ダンスです。とりわけ大好きなフランスのアニシラ・ペーゼラ組がソルトレーク五輪で金メダルを取ったのはうれしいニュースでした。この組は男性を女性がリフトするという常識を最初にくつがえした技術の持ち主で、美しいカップルでありながら女性アニシラのパワフルさと男性ペーゼラの優雅さが何ともいえないハーモニーをかもし出しており、その現代風なパートナーのあり方が印象深くずっと応援しているものです。

 聞けば、銀メダルのロシアのロバチェワ・アベルブフ組の男性アベルブフはアニシラの元パートナーで、アベルブフがロバチェワの元に走ったため、失意のアニシラは自分の尊敬する選手ふたり自分と組んでほしいと手紙を出したといいます。応えてくれたのがペーゼラでアニシラは鞄ひとつでロシアからベーゼラのいるフランスのリヨンへ行ったそうです。この自分の能力を信じる力と行動力が金メダルへの道でした。あのスリムな身体でペーゼラを支え笑みを浮かべて堂々と氷上を滑走していくアニシラには思わず拍手を送りたくなります。

 時をほぼ同じくして国会の予算委員会で田中前外相と鈴木宗男議員の「言った、言わない事件」の参考人招致がありました。田中前外相はお得意の人を引き付ける話法で官邸や霞ヶ関の実態をすっぱ抜きました。それがすべて本当であるなら永田町も霞ヶ関もとても普通の人の住める世界ではなさそうで、こんな人たちが日本を支配しているとすれば、世界の非常識にも、不況にもなるのは不思議ではありません。しまいに田中前外相は小泉首相へと矛先を向けました。思いおこせば「変人」を首相に後押ししたのは他ならぬ田中前外相であり、ふたりは政治改革、行政改革のパートナーであったはずです。この小泉批判は「心変わりしたパートナーに対する未練がましさと愚痴」のように私には聞こえました。

 ビジネスの世界でも相手は職場内であったり、取引先であったりパートナーを組む場はたくさんあります。特に異性のパートナーである場合は、お互いに甘えが出たり、相手に対する過剰な期待があったりしがちで、最初は良くても長続きしないことがあります。また、男性側は男性社会の力の構造の中でどんどん出世したり、実力以上に評価されることもあるのに対し、女性の方は実力ほどもなかなか認めてもらえないこともあります。そこで女性が相手に対して被害者意識を持ったり、過去の恩をしつこく押し売りしたりするケースも見られますが、かえって命取りになることもあります。お荷物に思われ、スカートを踏んづけられるどころか、転んでケガをさせられることもあり得ます。何と言っても相手はパートナー、こちらの弱点も熟知しているわけですから。お互いにいつまでも人間として尊敬し、配慮しあえるパートナーなら長続きします。この「お互いに」という状態を維持するのは想像以上にむずかしいものです。

 私はアニシラのような性格が好きです。だめなら、人を見る目がなかったと反省して、さっさと新しいパートナー、自分の能力をより生かせる相手を積極的に探すことです。そして金メダルを取って見返したら良いではないですか。元パートナーを「彼は今でもいい友達よ。」というアニシラのような日が早く田中前外相に来ることを期待しています。

2002.03.07

河口容子

健康保険制度の行方

 健康保険がありがたいと思えた時期がありました。会社員の頃、私は二度入院した経験があります。一度は二ケ月入院しました。二度目は三週間で手術もしました。当時、健康保険の被保険者の医療費負担はゼロで、入院中の食費も無料。自分でかけていた生命保険の疾病特約で差額ベッド代を出してもおつりが出るくらいで、金銭的な不安は一切なく治療に専念することができました。

 ところが会社員を辞める頃には医療費負担は2割、月々の健康保険料も何と4万数千円となっていました。年間50万円も健康保険料金を払いながら、年にせいぜい数回しか行かない病院でまた医療費を払う、こんな制度に変わりはててしまいました。よく、小額のお金をかけ捨てて安心を得る行為を「保険みたいなものだから」と表現しますが、健康保険はもはや「保険みたいなもの」ではなく、酷税か強制的な寄付であり、誰かが確実に助かっているという実感もなく、これだけのお金はいったいどこに消えるのか不思議でたまりません。

 テレビでやっていましたが、世界的に認可されているガンの治療薬が日本では使えません。薬事法による認可を受けるのに長い年月と費用がかかるからです。輸入薬に対し薬事法の許可がおりるのは年にたった数件です。他国民と比べ日本人がそんなに特異な体質とは思えず、また重篤な病気であればあるほど自己責任で生への賭けをしてみたいと思うのは当然です。この不思議な制度は国民の安全のためというより日本の製薬会社の保護のためと言って過言ではないでしょう。日本で特殊な薬を使って治療するには当然健康保険は使えませんから莫大な医療費がかかります。

 つねづね思うに医療費になぜ料金表がないのでしょう。美容室の料金表もいい加減とは思いますが、一応施術ごとにいくらからというような表示はお店にしてあります。医院、病院にはありません。薬にしても処方される薬とその料金が適切なのかどうかまったくわかりません。医療を神聖化し、一般人にはわからない神業であるかの如くまつりあげている国民にも責任があります。よくおすすめレストランの記事や本が出回っていますが、病院版もあってしかるべきです。手軽に試すことができない分、もっと情報があっても良いでしょう。

 会社員の頃、定期的に成人病検診がありました。実は再検査になることがたびたびあり、私はその検診を受けたクリニックではなく、日本でも有名な大病院に再検査に行くのですが、毎回どこも悪くなく先生にせせら笑われただけでした。どうやら検診を行うクリニックが医療費ほしさに怪しそうなところ、ありそうな病気で再検査を促すようなのです。医療費の無駄であるばかりでなく、医療に対する信用すらなくしてしまいます。逆に半年ごとに定期的に検診を受けていてもガンが発見されず亡くなったケースも知っています。

 国民皆保険制度は誰もが平等に安心して医療を受けられるという世界でも誇るべきもので、清潔な国としてのイメージアップに貢献してきました。今後加速する高齢化社会に向けて、制度や関係機関の徹底的な合理化と、医療の透明化、患者やその家族の立場に立った医療のあり方など、もっと抜本的に改善すべき点はたくさんあるのではないでしょうか。それを忘れて取りやすいところからお金を集めていては、健康保険制度はいずれ崩壊するしかないでしょう。

2002.02.28

河口容子