産業の空洞化

 「セーフガード」この聞きなれない言葉が飛び込んできたのは昨年末だったと記憶します。安い輸入品が大量に市場に出て国内の生産者が不況に陥ったからです。また最近中国産の野菜にまでこの話は飛び火しました。

 「お父さんの会社が不景気でお給料が増えないけれど、安い輸入品のおかげで家計が助かるわ。」と喜んでいたお母さんも、ある日お父さんの会社が日本で作っている商品が売れず倒産したニュースを聞き腰をぬかす、ということがおこりかねません。気がつけば衣食住はほとんど輸入品に依存しています。

バブルの崩壊以降、消費は冷え込みました。コスト削減のために少し力のある企業なら安い労働力や土地を求めて海外に生産基地を作ります。あるいは商社や小売業が1円でも安くて良いものを作れるメーカーを世界中探しまわりました。「産業の空洞化」と言われて久しいですが、技術移転のおかげで世界一品質にはこだわりを持つ日本人も喜んで買うような商品がアジア各国を中心として作られるようになりました。毎日を美しく彩ってくれる花々も何と南アフリカ、ケニア、南米と地球の裏側から空輸されているのです。

 自由貿易、非関税障壁の撤廃、市場開放が先進国の証であることは世界中の人が信じて疑いません。また、貿易のみでなく規制緩和も最近まで声高に言われていたことです。あたかもこれらの政策を逆行させるようなセーフガードがなぜいきなり論議されなければいけないのでしょう。業界団体が文句を言えば聞いてもらえるなら、文句はとどまるところを知りません。

 そもそも商品の購買権は消費者にあるのです。アジア諸国とて「安かろう悪かろう」の時代を乗り越え品質向上に努力してきたからこそ評価されて売れているわけです。彼ら(一部の日本人関係者も含みます)が努力を続けている間に日本企業はどんな努力をしたのでしょうか。

 農業については「保護」という名前のもとにほとんどが自営業、企業でたとえていうなら零細企業のままです。高齢化により競争能力はもとより競争心までなくしてしまっています。

 最近まで「何でも日本が一番」と言っていたお金持ちのお年寄りでさえ、英語のえの字も知らなくても自分の資産をいつの間にやら外国銀行に移し、しっかり外貨預金などしています。これは日本円が超低金利だからでもありますが、日本の銀行にないサービスの質を彼らが持っているからでしょう。銀行も護送船団方式のぬくぬくとした保護の下、競争力を失ってしまった産業です。

 また、ゼネコンをはじめとする下請け、孫請けという整然としたピラミッド型産業構造にも異変がおきています。いわば、日本国中空洞化が進んでいる訳で急速な国際化社会の中で淘汰が進むのは自明の理です。これは政府の産業政策の怠慢と言っても過言ではないと思います。日本として育てていくべきかけがえのないものは何なのか、競争からこぼれおちた者(企業)に転業するための援助、雇用機会を創出するために新しい産業の育成などその場しのぎではなく、将来をきちんと見据えた具体策を政府が提示していかない限り、いつまでたっても暗いトンネルから光は見えない気がします。

2001.04.20

河口容子

正直者が得をする社会

 どんなに世の中が変わろうと許せないのは「正直者が損をする社会」、そして「親切があだになるような取引先や人」です。意地悪かも知れませんが、私は時々相手がどういう対応をするかをチェックすることがあります。

 会社員の頃です。職場にある取引先から同じお菓子がお中元として2回届けられました。取引先がデパートの外商に出したリストに重複して記載されていたか、デパートの手配ミスでしょう。「ミスをしたのは相手なのだからそのままいただいておこう。」という部下を押しとどめ、「いつかは誰かが発見するはず、それまで黙ってもらっていたと思われるのは企業の信頼にかかわる。」と私は言いました。

 デパートの外商にまず電話を入れ、調査をするように依頼しました。ここでのチェック・ポイントはまずこのデパートの担当者がきちんと調査をするかどうかです。繁忙期でもあり「数千円のお菓子1箱くらいで面倒だ。」と思うかも知れません。小1時間ほどたって、取引先の秘書役から電話が入りました。「私どものリスト作成に手落ちがございましていお恥ずかしい限りでございます。ご丁寧にご連絡を下さるとはさずが○○社様でございます。ありがとうございました。よろしければそのまま皆様でお召し上がりくださいませ。」というものでした。

 次は最近の例です。私の零細企業でもオフィス用品の通販を利用しています。文房具が割引価格で買え、買いに行く手間暇も省けるで大助かりです。いつも少量多品種の発注なのですが、間違った商品が入っていることはありません。ところが、その日に限って間違ったファイルが入っていました。サイズは同じなので別にこれでもいいと思い、念のためカタログを調べたところ私の発注したものより44円高い商品でした。これも黙ってもらったところでその会社の損失は44円で、コストからすると対応の手間隙の方がばからしいかも知れません。ただ、私はミスがあることを伝えた方が今後のミス防止にはつながるし、44円といえども薄利多売な業界で黙ってもらうのは失礼と思いカスタマー・サービスへ電話をしました。

 ファイルは間違っていたけれど不具合はないのでそのまま使うこと、価格は高い方へ修正して請求してほしいと伝えたところ、担当の女性は「誤った商品をお届けして申し訳ありませんでした。明日私が発注された商品を責任を持ってお届けするようにいたします。本日届いたものはよろしければそのままお使いください。」というかえって申し訳ないような対応でした。

 上のふたつの例は、私の正直さに見事に応えてくれた企業であり、業績もすばらしいだけに企業にとって「顧客に対する細かい配慮、真摯な姿勢」がいかに大切かを教えてくれる材料となっています。逆に同じようなけースでも踏んだり蹴ったり、電話をした事を後悔させられるような思いをした企業も多々ありますが、長い目で見ると衰退していくケースが多いようです。

 企業のみならず、対人関係も同じです。現在は金銭だけで「勝ち組、負け組」と分けていますが、正直者を平気で踏みにじるような企業や人はいくらお金があっても「負け組」と言える世の中を作っていきたいものです。

2001.04.13

河口容子