宴のあと

 以前未曾有の没落ぶりを見せる日本の「国際競争力」というテーマで書かせていただきましたが、どんどん選手がメジャーリーグへ進出している野球とレベルの向上著しいサッカーは別と内心思っていました。現在行われているワールド・カップでも日本チームは予選を1位で堂々通過しベスト16へ進出しました。4年前のフランス大会の成績に比べれば大したものです。トルコ戦では入りそうで入らない1点に泣きましたが、ここまで上がれたことで努力は必ず報われると感動しました。が、その夜の韓国チームの闘いぶりを見てやはり上には上がいる、これぞアジア人の粘りと本来イタリアチームのファンの私もいつしか韓国チームに拍手を送っていました。

 「サッカー後進国」の極東へ世界最大のイベントをお金で買ったと陰口をたたかれながら今大会はスタートしました。サッカー先進国から見れば遠くて滞在費も国内交通費もバカ高い国へ普通のファンがやって来れるはずもありません。外国人の多くは日本企業が進出している国からの招待が多いと聞きました。外国どうしのゲームも日本人観客だらけ、そして空席問題、梅雨と世界のファンから見れば不快な大会だったかも知れません。新しく作られたスタジアムやキャンプ施設は宴のあと、有効活用されるのでしょうか。

 それにしても、日本中の盛り上がりは大変なものでした。仕事中、試合を見ていいかどうかの議論がお役所でまで飛び出したのは初めてのことです。残業せず、飲み屋にも寄らず初めて自宅へ直帰したお父さんや家族で初めて一緒にテレビを見た人たちもいたことでしょう。サポーターは12番目の選手と言われるように、サッカーはなぜかじっと一人で観ても楽しくないスポーツです。応援という形で自分もゲームに参加している気がします。押しつけられる「日の丸」や「君が代」は嫌いでも、自然に揺れる日の丸、わき起こる君が代の合唱、大声の「ニッポン」コールにとうの昔に忘れていた「日本人としての連帯」を感じた人も多かったことでしょう。

 野球は細かいルールがあり、ポジションも決められています。また、攻守もきちんと交替にやってきます。技能的にも長い訓練が必要で誰でもすぐまねはできません。従って、観客は鑑賞する、あるいは批評するという立場を取るしかありません。逆にサッカーはルールは単純で、大まかな分担はあってもピッチを縦横にかけまわり、創造的な無限のゲーム展開が可能です。野球型の管理社会からサッカー型のフレキシブルな社会へ変化している中で共感が生まれるのも当然な気がします。

 今大会ではサッカーはマイナースポーツである米国が勝ち進んだことにより米国でもサッカーブームが起こるかも知れません。オリンピック、冬季オリンピックともにあまり活躍しないアフリカや南米のチームが活躍するところにワールドカップの面白さはあると思うので、スポーツ大国米国はほどほどにしておいていただきたいのが私のホンネです。

 さて、次のドイツ大会に向けて出発です。今度は振り出しに戻り地区予選に残らない限り出場すらできません。4年後、日本チームは、そして日本はどうなっているのでしょう。美しい夢の続きを見るために努力したいものです。

2002.06.27

河口容子

女性の出張

 先日、ある有名サイトの掲示板で「女性で出張する人、メールを交換しましょう」というタイトルを見つけ、何年も前の記事が間違って出ているのかと眼を疑ってしまいました。内容を読むと、彼女は大都市に住んでいるようですが、まわりにはよほど出張する女性がいなくて情報交換をする相手がほしいのかとも思えたし、意地悪く取れば「女性だのに出張している」ことを自慢しているようにも思えました。それと同時に日本はいまだにそんな社会なのかとひどくがっかりしました。

 まず、出張そのものの有無はその人の職種、属する業界、あるいはポストによって決められるのであって性別によって差別されているのではないと思います。私が就職した20数年前でもスチュワーデスや旅行会社の添乗員は女性であっても出張するのが仕事でした。つまり、現在でも確かに女性の出張者は男性の出張者よりはるかに少ないことは認めますが、性別というよりも、その人の仕事内容による結果とも言えます。特に、近年は長引く不況で経費削減から出張そのものの回数が減っていることから、男性にも出張の機会は減っている気がします。

 男女雇用機会均等法が試行されたのは1986年4月です。当時はバブルの真只中で女性の労働力を求める活力にあふれていました。当時新卒で入社した女性総合職も40才に手が届くようになり管理職として活躍している人も多いはずです。それともバブルとともにそういう女性たちも消えてしまったのでしょうか。

 私の経験からいえば、確かに当時なら女性の出張はもの珍しく「女性にも出張があるんですか?」「女性が出張した場合の日当は男性と同じですか?」などと真面目に聞く人たち、しかも女性が多く困惑した思い出があります。また、終業後大阪へ出張する際、スーツ姿で幕の内弁当に缶ビールで新幹線の中で夕食を取っていたら、周囲のサラリーマンたちに白い目で見られた記憶があります。また、地方都市へ行くと「これが東京から来た総合職の女性」と一瞬のうちに見物人に取り囲まれたこともありました。アフリカの奥地に一人で乗り込んだような気分でした。

 10数年前にヨーロッパにミッションの一員として出張した時、受け入れ国の政府の人々から「あなたは本当に日本から来たのか、ここに住んでいる日本人ではないのか?」とたずねられ、なぜそのような質問をするのかと問うと「日本では女性は差別されているので重要な仕事はさせてもらえないし、出張なんてあり得ないと聞いた。」という返事でした。

 また、「日本では女性は管理職になれるのか」「日本では女性が会社の社長になれるのか」と外国人から聞かれることはしばしばです。なれると答えると「そうか良かったね。ここでは能力があればごく普通だけど。」と東南アジアの人たちにも言われます。その一方、「英語もしゃべれないくせに山のように買物をしていく」あるいは「ジゴロに引っかかり日本まで連れて帰る」遊び人としての日本女性の噂も海外では有名で、同じ日本女性としては恥ずかしい思いをよくします。女性の出張者の皆さん、ご活躍をお祈りします。

2002.06.20

河口容子