[158]空飛ぶキティちゃん

キャラクターを中心としたライセンス・ビジネスの国際見本市「ライセンシングASIA」は、文化の香りがし、喧騒のない秋らしいイベントです。
同時に開催されたセミナーでは中国市場の最新情報を聞くことができました。子ども以外を対象とした調査では、漫画を「非常に好き」「好き」と回答した人が 4割を超え、アニメについては 6割が「非常に好き」「好き」と回答していることから、もはや漫画やアニメは子どもだけのものではないという認識のようです。アニメに関して中国製は人気がなく、日本、韓国、欧米のものを希望している人が圧倒的多数です。「クレヨンしんちゃん」「ちびまる子ちゃん」の認知度は何と 70%を越えます。ただし、中国政府は輸入量と放送量の面において規制を行なっています。
キャラクター商品についても「よく買う」人が12.9%、「たまに買う」人は44.5% ですが、中国は海賊商品が「業界スタンダード」で、本物の販売よりニセモノが先行するケースも多々あります。特に、 DVDやCDの 85%が海賊版で、法的保護が強化されるとともに、売る側も低価格の正規品を出し海賊版の横行を防止するという策も取られているようです。人口の多さからみれば「薄利多売」で十分利益が出るということでしょう。
 TVドラマについては、中国でも韓流が圧倒的な強さを誇ります。2004年10月15日号「日中韓のキャラクタービジネス」でも触れましたが、韓国は国を挙げてコンテンツ・ビジネスの輸出を推進しています。韓国ドラマはアジアのみならずアラブ諸国にも輸出されていますが、ドラマに登場する韓国製品の有力な宣伝媒体ともなっています。日本でも韓国ドラマは流行っていても、ライフスタイルや製品への憧れはあまりない、この視点が欠落していたわけです。というわけで日本政府もコンテンツ・ビジネスの輸出へ向けてやっと腰を上げました。
 そんなところへ飛び込んできたのが台湾のエバー航空のハロー・キティづくしのエアバスです。機体のペイントはもちろんのこと、壁紙、客室乗務員のエプロン、紙コップ、搭乗券などなどにいたるまでハロー・キティがついているらしく、3年間台北と福岡を往復します。日本好きの台湾人を観光に呼び寄せると同時に航空会社側としてもキャラクターの力を借りてオフシーズンの稼動率を高めようという狙いのようです。同業のシンガポール航空も長らくハロー・キティがマスコットです。空飛ぶキティちゃんは日本の親善大使でもあり、国際ビジネス・ウーマンとも言えましょう。
 中国のあるコンビニが客単価を上げるために「一定金額以上買ったお客様」に著名キャラクター・グッズをさしあげますというキャンペーンをやったところ想像以上に数字があがったそうです。中国でも「鉄腕アトム」を見て育った世代が30代となり、その子どもたちも含めれば巨大な市場になります。少子高齢化に入った日本では、中高年をターゲットとしたビジネス構築をせざるを得ませんが、アジアの国々では人口構成が違うことを思い起こせばビジネスチャンスが見えてくるのではないでしょうか。
河口容子

[059]中国へ押し寄せるライセンスビジネス

 11月 4日から 6日にかけ、東京ビッグサイトで「ライセンス アジア2003」という国際的なライセンスビジネスショーが開かれました。最終日に「香港―中国市場新規参入への掛け橋」というタイトルのセミナーがあり、 1ケ月前に申しこんだところすでに満席となっていたのにはかなりショックでした。実は私と香港のビジネスパートナーは日本のあるキャラクターのライセンスビジネスを中国でスタートさせたばかりで、かなり先見性があると自負していたからです。もちろん、多くの方が関心を持ってくれれば市場は大きくなります。反面、競争も激化するということです。
 現在、アジアのライセンス市場は100億米ドルで、そのうち日本がダントツの 1位で88億米ドルです。2位は桁が違う 6億米ドルとはいえ何と中国なのです。そして、これが2010年には16億米ドルの市場になると予想されます。
 中国におけるライセンス・ビジネスは 76%がキャラクターで 20%が登録商標です。そして対象となる産業(製品)としては玩具およびゲームが 55%、アパレル 53%、文具 40%、子ども用品 39%となっています。チープな商品もあれば偽物もありますが、ライセンス・ビジネスといった知的所有権ビジネスも中国にはいつの間にか育っていることがわかります。
 「中国は日本の何十年前と一緒」というような表現をされる方が結構いらっしゃいますが、それは違います。先月、私たちはある日本の工業団体とジョイントで中国の 4都市で消費者に対する聞き取り調査を行いました。もちろん日本とは経済格差があり、金額ベースでは比較になりませんが、可処分所得率は中国のほうが高いのではないかとさえ思えます。まず、若年層は一人っ子で、 6つポケット(両親と祖父母たち)を持っています。社会主義のお国柄でワーキングウーマンがほとんど、しかも男女の賃金格差はありません。ぜいたくさえしなければ食も住も安い。日本とは社会構造が違うことを見落としてはなりません。
 私自身は会社員時代、米国の巨大スポーツブランドの他、米国のアウトドアアパレルブランド、イタリアのスポーツブランドの担当をしたことがあります。また、欧米のファッションや宝飾品ブランドの交渉経験も数多くあり、知的所有権ビジネスは自分の強みのひとつです。また、ビジネスパートナーは知的所有権を得意とする弁護士です。中国では外国の企業には規制されているメディア・ビジネス(出版、放送など)の権利も持っております。凝り性のパートナーたちは自らライセンサーとなり、おまけに自力で流通網まで作ってしまったので、管理体制も万全のはずですが、いかがなりますことやら。
 キャラクターのライセンスビジネスは製造業と違い空洞化しません。管理さえ失敗しなければ、日本以外にどんどん市場を拡大することができます。また日本ではすたれたキャラクターも違う市場で甦れば、新たな収益を生んでくれるかも知れません。違う市場向けに仕様を変えたキャラクター商品が日本に逆輸入されて人気になる、ということもあるでしょう。アニメやキャラクターは今や日本のお家芸、中国でも日本の新しい顔として活躍してくれるに違いありません。
河口容子