[355]日本の女性差別の根底にあるもの

国連女性差別撤廃委員会は日本に対し、女性が離婚後 6ケ月再婚できない民法 733条の撤廃をはじめ、家庭内暴力を含む女性への暴力を削減する具体策、男女の役割や責任をめぐる旧態依然とした考えをなくす教育の徹底などを求め、日本政府はこの勧告に従い、今後国内法の整備をすすめなければならないそうです。
UNDP(国連開発計画)が発表したジェンダー・エンパワーメント指数(GEM)によると2008年12月の数字で日本は 108ケ国中58位です。これは国会議員、管理職、専門職、技術職に占める女性の割合や男女の所得差を指数にしたものです。2004年には38位、2005位には43位とどんどん後退していき、タンザニアやウガンダにも抜かれている始末です。
帝国データバンクが全企業に対する女性社長の比率について数年間統計を取っていましたが今はやっていません。数字が5.5%.前後で一向に増えないからでしょう。一方米国では38%あると聞きます。この統計によれば、日本では女性が社長の企業は消費者相手の小売やサービス業に多く、また親や亡夫から事業を継承したケースも少なくないと書いてあります。また、見かけは創業者であっても親、配偶者、愛人などの傀儡であることもあり、女性社長の場合はまず背後を疑われがちで、私の会社の場合私自身が100%株式を所有していることを明記しています。
先週号に登場するフランスの女性コンサルタントAさんは自分の会社の社長であり、妻であり、母でもあります。ヨーロッパ域内はもとより、遠い日本にだって年に3-4 回は出張して来るそうですが、実におっとりと淡々と仕事をこなしています。ヨーロッパは母性保護の下、ゆるやかな男女平等という社会を作っているせいだからでしょうか。
東南アジアや中国も女性の社会進出がさかんです。商談をすれば女性ばかりという事も珍しくはありません。経営者、上級管理職であってもだいたい既婚者でお子さんも(国によっては4-5人) いらっしゃるのが普通です。昔の大家族制度が生きているのと信頼できるお手伝いさんを安価で雇えるからこそできる技です。
日本の女性の(特に質のレベルでの)社会進出を阻んでいる大きな問題点はまず「個」を発揮するための機会均等がないことです。景気が悪くなければ女性の新規採用は見送られ、女性社員もリストラのターゲットになりやすい。そして非正規社員として労働力の調整弁として女性が「活用」されてきました。個よりも性別で百羽ひとからげの扱いを受けかねません。
女性が「OLです」「パートです」と言ってもどんな仕事をしているのか、どんな業種に勤務しているかは聞いてももらえません。女性の仕事なんてたかが知れていると思う風土があるからでしょう。
ある商社マンは「商社の女性総合職なんてヒステリーの独身女ばかり」と言い放ちました。後輩の女性は「商社OLは男性にちやほやされるのに、総合職と聞いたとたんにのけ者にされてしまう。」と嘆きました。私自身も、「総合商社という男性の聖域を荒らしているとんでもない女性」というような目を感じる事や「皆のさらし者」になっているような気になる事がしばしばありました。
もうひとつは少子化ともつながりがあるのですが、有能な女性であっても結婚や出産のため、いったん退職すると、人並みはずれた才能か強力なコネがない限りまともな職には二度とありつけない事です。女性の出産、育児の時期というのは社会人としての伸びざかりの時期で、女性にとって将来を捨てる覚悟ばかりか、このご時世、夫が失業するリスクや離婚のリスクもあわせて考えると二の足をふんでしまいがち。かといって両立は環境がよほど整わないと無理でしょう。
40代ちょっと過ぎた頃だったでしょうか、後輩の20代の男性にからかわれたことがあります。「その年収の人を遊ばしてくれるほどの男性はまずいませんからね。専業主婦になりたくたってもうなれませんよ。それに辞めたらスーパーのレジか掃除婦くらいしか仕事もないですからね、絶対辞めたら損ですよ。」ありがたいような悲しいような、日本で女性がいったん「男性並みの仕事」という靴を履いたら死ぬまでそれを履いて踊り続けるしかないようです。
河口容子

[315]ジェンダー・ギャップ世界98位の日本

 毎年各国首脳や財界リーダー数千人がスイスに集う「ダボス会議」で知られる世界経済フォーラムが発表した2008年の世界のジェンダー・ギャップのランキングでは日本が98位との報道がありました。 130ケ国を対象に教育、保健、経済、政治といったカテゴリーでの男女格差を指数にしたものです。ちなみにトップ 3はノルウェイ、フィンランド、スエーデンで指数的には0.8以上です。確か1が男女まったく平等という意味だったと記憶します。
 スリランカ12位というのはちょっと不思議な気もしますが、米国が27位で0.7179、ロシア42位、タイ52位、中国57位で0.6878、ベトナム68位、シンガポール84位です。日本98位0.6434はケニア88位、バングラデシュ90位にも劣るというのは先進国としてはちょっと寂しいものの、当の日本女性たちが不満に思い、自ら動きださない限り、これは策を講じても無駄だと思います。
 教育、保健分野は差は少ないどころか、日本女性は世界一長寿というハイスコアをもってしても98位になるのは社会進出しても賃金や昇給の格差、政治参加率の低さにあるようです。私自身は能力と意欲のある女性に対する「機会均等」さえ維持されていればそれで良いと思います。あとは本人の意思と実力で勝ち取るのみです。
 私が総合商社に入社した頃は職種制度がなく、男子社員、女子社員という性別での区別しかありませんでした。雇用機会均等法の施行を前になぜか男子社員が自動的に総合職となり、女子社員が一般職と呼ばれるようになりました。そして申し訳程度に一般職の総合職への転換制度を作るに事になり、私は労働組合の人事制度諮問委員のひとりとなりました。専従ではありませんので委員の仕事は夜 7時頃から時には12時を越しましたが、私の注力したのは男性の総合職から一般職への転換制度(逆もなければ平等な制度と言えないからです)と評価の公平性に関する制度づくりです。
一方、社外では経団連の下部組織で働く女性のための経済誌の編集のお手伝いをしていました。「女性にも総合職の門戸を開放せよ」と単純に騒ぐ人たちもいましたが、私はこうやって外堀内堀から総合的に攻めて行くタイプです。今から考えると仕事だけでも暇ではないのによくそんなパワーがあったと思いますが、他人が作ってくれたものを選ぶよりは自分で創り上げるのが好きな性分ですので寝食を削ってでもやってしまいます。
 日本の大手企業は男性優位主義です。男性と同じ能力なら同じポストを得るのは絶対無理です。昇進するにも限界があります。では、自分で会社を作り社長になったら良い、と思い起業もしました。もちろん起業の理由はそれだけではありませんが、私は自分で決めて自分で責任を取るのが好きですから、会社員の頃より100倍くらいストレスがなくなったような気がします。
 日本のクライアントは女性の活躍できる公的機関と中小企業のみ。あとは海外のクライアントが圧倒的に多いのもフレキシビリティや伸びようとするエネルギーに魅力を感じるからです。おまけに何と世界で最低の部類の男女差別の国で社長をしているのだからどんなに優秀なのだろうと思ってもらえ、大変有利です。「天は自ら助くる者を助く」世界98位のジェンダー・ギャップですら皮肉にも私の競争力を押し上げてくれています。
河口容子
【関連記事】
[236]アジアと日本の働く女性たち
[52]女性の大学進学率