ミシュランの東京のレストランの格付けが話題になっています。私自身はこのようなガイドブックは1冊も買ったことがなく、他人の判断に頼ることなく自分の味覚と嗅覚でおいしいかどうかを決めれば良いと思うし、誰とどんな気分で食べるかで味も変わります。また、中途半端な外食より自分の作った料理のほうがはるかにおいしいという幸せ者でもあります。海外ではなるべくその土地の料理をいただきますが、何かしらヒントがあり、帰国して自分の料理に応用しています。今週はハノイで印象に残る食事の話です。
セミナーの日の昼食は会場である農業・農村開発省展示センターの会議室で関係者だけで静かにいただきます。どんな高級ベトナム料理店でも見られないもので50代くらいの方に聞くと「子どもの頃お祝いごとや親戚一同集まると食べた」とのことで「ベトナム版おせち」と私は呼んでいます。「食べるのがもったいないみたいですね。写真を撮るまで皆さん食べないでくださいね。」と私が言うと準備をしてくださったセンター長もニコニコ顔です。天秤棒に両方からバスケットがぶら下がっている形の竹細工。高さは50センチくらいありますが棒の部分には花が飾られています。バスケットの中にはもち米を蒸した上にいかの燻製状の豚がのせられているものが入っています。味もいかの燻製とそっくりです。かぼちゃをくりぬいてスープ入れにしたもの。かぼちゃの皮には花の彫刻がほどこされています。丸い揚げパン。フランスパンに砂糖をふりかけたバターをつける等など。こういう優しい懐かしいお料理で午前中の講演の疲れを取り、午後のコンサルテーションへの英気を養います。
この晩は例年商務省貿易促進局主催のディナーがあります。朝 5時半に起きディナーが終わる 9時ごろまでは一切気が抜けない 1日です。もちろんベトナム料理で、海産物の他にこの日の変わったメニューは山岳ブタの焼ブタにニンニクのスライスとはじかみのような野菜を入れてハーブに巻いて食べるものです。主催者の副局長は商社の社長経験者で日本への出張経験も多く「オオキニ」を連発しながら、焼ブタをハーブに巻いて下さったりもします。「あなたのような日本のビジネスウーマンはきれい、カワイイデス。」にはびっくり。「これは肌がきれいになるから」「これは若返りに効くから」といろいろな野菜やハーブをすすめてくれました。まん丸い顔に大きな目のついた私の顔は福相で中国人には美人に見えるという絶大な自信があるのですが、ベトナム人もそういう好みなのかも知れません。同局の日本語と英語に堪能な若手男性職員は 1年会わない間に結婚し、子どもまででき、ベトナムの経済成長並みの変化率です。奥さんは 8歳年下で国営銀行に勤務しているとのことですのでエリート・カップルです。
翌日はちょっと冒険もしてみました。ミッションに随行して来た在日ベトナム大使館のL商務官の実家はハノイの旧市街にあります。その近くのおいしいフォー(麺)のお店を教えてくれました。店主が道路ぎわで麺をゆでているような何の装飾もない10人も入ればいっぱいのお店です。庶民の行く1杯 100円くらいのお店。工業デザイナーのY先生に途中で合流した日本の政府機関のH課長と3人日本人ばかりスーツ姿で入ったので周囲のお客さんたちは物珍しげに私たちを見ていました。このようなフォー屋さんをハノイの市内のあちこちで見ることができますが鳥インフルエンザの影響か、チキンは影をひそめビーフが主流になっています。
この後は旧市街のナイトマーケットを歩いてみましたが、道路のでこぼこにつまづかないよう、バイクに轢かれないよう、時折出てくる子どもにぶつからないよう、スリにあわないようにと気を配ることがいっぱいで頭と体が混乱しそうです。ホアンキエム湖近くのカフェにたどりつき「カフェ・スア」(コンデンスミルクの上にベトナムコーヒーをアルミのフィルターでドリップしたもの)を注文する頃にはすっかり疲れ果てていました。ハノイは間口税だったため古い建物は間口が狭くその分3階か4階建てになっています。いずれもバルコニーがあり、そこから通りを眺めながらお茶を飲んだり、食事ができたりします。古き良き時代の映画のセットのような景色、なぜかアルゼンチン・タンゴが似合う気がする街角です。
河口容子
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9月 2日はベトナム社会民主共和国のナショナルデーです。これは1945年のベトナム 8月革命のあとホーチミンが 9月 2日ハノイ市の大広場でベトナム民主共和国の独立宣言を行なったことにちなんでいます。今年は60周年記念でもあり、都内某一流ホテルで駐日ベトナム大使主催によるパーティが盛大に催されました。
チュー・トアン・カップ大使や大使夫人を中心とするホスト側がレシービング・ラインを作り、ゲストはその前を並んで順に挨拶をしながら会場に入って行くのですが、私の前に急に横入りする人物がいました。見ると王毅駐日中国大使でした。なるほど VIPは横入りOKらしいと変に納得。ややあって私の番になり、ベトナム大使に「このたびはお招きありがとうございます。お目にかかれて光栄でございます。月末にハノイにセミナーの講師でまいります。」と挨拶をするとやさしそうな大使は「それはありがたい事です。」とご自分の名刺をくださいました。大使夫人は髪をシニョンにまとめ、黒のベルベットのアオザイ姿でしたが、ベトナムの方としてはふっくらめで、アオザイなんて華奢な人しか似合わないだろうと思っていた私には目からうろこのエレガントなマダムでした。
会場に入れば、女子十二楽坊ならぬベトナムの民族楽器を使った美女たちと男性ひとりの演奏がステージから聞こえてきます。多くの方が思わず携帯電話をかざしてパシャリ、パシャリと写真を撮ったほどの愛らしさでした。
パーティは両国国歌でスタート。ベトナム国家は進軍歌ですから君が代とは対照的な雰囲気のものです。もちろん会場の日本人はほとんど歌えません。来賓の挨拶は川口前外相、乾杯の音頭は外務省藪中審議官という格の高さで、ベトナムにとり、投資額ナンバー1国家は日本というつながりの深さをあらためて感じました。ベトナムも世界一日本語話者の多い国をめざして教育を行なっているそうです。ドミンゴ・ L・シアゾン駐日フィリピン大使のお姿もありました。
一方、会場を見渡すとお子さん連れの女性もいれば、和服姿の女性も。日本女性のアオザイ姿もかなり見られました。しかしながら、いつも問題だと思うのは立食でのマナーです。日本人というのはなぜか食事を取ると移動せずに近くで食べることやおしゃべりに夢中になり、これからお料理を取ろうとする人のじゃまをしてしまうことです。ベトナム名物生春巻きの前には一時数十人が行列を作りました。そこへ堂々と横入りをした女性もいました。また、テーブルの向こう側(ホテルの従業員が入る側)に入り込み、お皿いっぱいに春巻を取り、ホテルの従業員に注意された男性もいました。食べたあとのお皿を置くスペースもなく、これはホテル側のサービスのしかたにもうひと工夫あっても良いのではないかと感じました。
駐在武官の方が非常に多かったことも特徴で、韓国の方もオーストラリアの方もいらっしゃいました。金モールのついた礼服の方や略章を制服に所狭しとつけておられる方ありで、日本のこのようなパーティであまり軍服姿を見ることはないだけに印象に残りました。テロ警戒でガードマンがわりに主催者が意図的に招待されたのでしょうか?だとすればベトナム人は非常に賢いと思います。あるは私の深読みのしすぎでしょうか。
河口容子
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