[378]日仏混合かしまし娘

フランスのクライアントであるジュエリー・メーカーの社長 V女史が東京ビッグサイトで開催された「国際宝飾展」に出展するために来日しました。2009年 8月21日号「フランス人と盆休み」に登場したパリ在住の日本人男性コンサルタントの N氏とブランド・ビジネス・コーディネーターの A女史も一緒です。

私自身は会社員の頃 4年ほどジュエリー・ビジネスを担当した経験がありますが、この展示会に足を踏み入れるのは約10年ぶりです。約 1,300社が出展しており商品が商品だけに招待客しか入場はできません。 V女史は私のために VIPの招待券を用意してくれました。要所要所で警備員が台の上に立って警備をしている姿が目につくのが一般の見本市との大きな違いです。

N氏がホテルへ戻って仕事をしている間に V女史、 A女史、とともに訪問してくれた企業やそのコメントを分析しました。 V女史は米国の大学院を出ており英語も堪能、フランス人というよりアングロサクソンっぽい女性です。私も含めいずれも女性の社長さんですが、皆着飾っている割には色気はなく少年系。それでもお菓子の話に盛り上がるところは「日仏混合かしまし娘」と言った感じです。

会場で会社員の頃の大先輩が元取引先で顧問をなさっているのを発見。何とパリとザイールの駐在経験がおありでフランス語も堪能とあって早速 V女史のブースへご案内。その後も先輩には事務局も含め、 VIPにお引きまわしをいただきました。会社員24年、独立して10年になりますが、10年前、20年前、あるいはそれ以上前にご縁のあった方々がいざという時に支援して下さるのも長く仕事を続けてきたおかげと最近特にありがたく思うようになりました。逆に言うとそのくらいの年月を積み重ねて「人としての信用」はやっと構築できるのかとも思えます。

V女史のブースに戻り「このような方々がいつでもご支援くださるとのことですよ。」と伝えると「アリガトゴザイマス。」と日本語で頭を下げてくれました。彼女のために市場調査の仕事を引き受けて以来、実は苦難の連続でした。私はとにかく何事もさっさと決めたり片づけたりしないとイライラするタイプ、おまけにホウレンソウ(報告、連絡、相談)をみっちりやらないと気のすまない性格です。ところがフランス人はマイ・ペース。返事はのらりくらり、連絡や相談なしに何かが起こるといった按配でフラストレーションの連続でしたが、顔を見れば憎めないお人柄のようです。

以前、友人から「あなたは 3人組みが得意ね。」と言われた事があります。確かに日仏混合かしまし娘はもちろんのこと、別件では N氏と A女史の 3人組み、香港のビジネスパートナーは兄弟との 3人組、ジャカルタでは華人の男性と女性の 3人組です。理由を分析をしてみたのですが、 3人だと 1人だけ仲間はずれにされまいとお互いに気を使いあうのでバランスが取れるからだと思います。 2人の仕事というのはどちらかが主、あるいは従という関係になりがちで、私の性格からすると主は責任がより重く損した気分になり、従の場合は気を遣いすぎて疲れる上にみじめな気分になります。技術者、デザイナーといった異分野の方がパートナーだと相互補完関係になるため成果があがります。仕事の成功はまず「性格のバランス」から、これは会社員の頃から気になっているポイントのひとつでもあります。

河口容子

[278]価格交渉の裏にあるもの

 日本のクライアントがアジアで生産を行なう場合、その提携工場を探すのも私の仕事です。今回はベトナムという国の指定があったのですが、もともとその産業に関しては純粋なベトナム系の工場は皆無に等しく、中国、香港、台湾、韓国のメーカーでベトナムで操業をしているところを探さざるを得ません。各国あわせて 2,400社ほどの企業概要をチェックすることからスタート。その中で 7-8社が候補に残ったのですが、興味を示してくれたのは韓国の 2社だけでした。誰か知り合いに紹介してもらう、そんな甘い考えではとてもできない作業です。
 日本から商品見本を送り、それをもとに試作しての見積作業となるのですが、 A社は B社より 40-60%高い価格でした。「何でこんなに高いんでしょうか。やりたくないから断ってくれということでしょうかね。」とクライアントの担当者。確かに日本では断ってほしい時にわざと高い見積を出すことがあります。引合を出していただいたからお断りするのは失礼なので形式上見積は出します、という感じのものです。私自身はこんなもってまわった事はせず、お断りしたい時は率直に言うことにしています。私にとっては見積を作る手間が省け、わざとらしい見積を文書で保存されることもなく、相手も私の見積を待たずして他へ当たることができるからです。
 海外の工場はたいてい私と同じような考え方です。前述の候補 7-8社に取引の概要を説明してもほとんどは返事も来ませんでした。アジアの工場は日本市場向けの商品製造を依頼されることを必ずしも喜ぶわけではありません。技術移転や投資が伴うものは別として、「品質にうるさい」「少量多品種展開で手間隙がかかる上に発注金額が小さい」そして最近は「品質改良とコストダウンを次ぎから次ぎへと要求する、良いものは高いに決まっているではないか」とブーイングの嵐です。
 日本企業は慎重でまずは少量で取引を開始し、徐々に拡大していく傾向が強く、一方米国の大手量販店チェーンなどは細かいことは言わず、種類もシンプルで莫大な金額の発注をしていきます。こういう実態を知っているだけに日本向けを引き受けでくれる工場は本当にありがたいと思ってしまいます。ただし、品質が良いという証拠づけに日本からの発注がほしい、という工場もあります。一時中国では最初は日本向けに専念、日本側が細かな要求をするようになったら利益が薄くなるので欧米向けに切りかえるという工場がふえました。ところが日本側が「発注してあげなければ中国の工場は困るくせに」などと完全に勘違いしているうちに商品供給源を絶たれて断崖絶壁に立たされたという話もあります。
 さて、上記 A社には「現状の価格ではビジネスにならない」ことを伝え、どのような条件なら価格を下げてもらえるか、あるいは材料や仕様の見直しで価格は下がるかと問いかけました。 1日たって 5%ほど無条件で価格は下がりました。通常値下げには条件をつけるか、恩着せがましい一言がつくものです。そうでなければ最初の価格はわざと高くしたか、いい加減に出しているのかのどちらかだと露呈するからです。これは受け取る側としてはあまり気分の良いものではありませんが、もっと踏み込めばずるずると価格は下がる可能性はあります。
 かつてフランスのあるブランドとロイヤルティの交渉をしたことがありますが、何度か交渉を重ねるうちに当初の価格の半分以下になってしまいました。ここでそのブランドとのビジネスはやめることにしました。理由は最初から 2倍の価格をふっかけるという企業は信頼できないこと。そして、だんだん値段が下がったということは競合相手が誰もいないと読んだからです。当時はブランドブームで日本企業間で取り合いになるのが普通で、そうではないのはよほど売れそうもないか、問題含みとしか思えなかったからです。この決断は大当たりでこのブランドは日本に上陸することなく消えました。
 私自身は国内外の公的機関も民間企業もクライアントに持っていますが、価格交渉にもつれこんだことは一度もありません。イエスかノーかだけです。おかげで時間の無駄や感情のこじれもほとんどなく良い仕事をすることのみに邁進できます。
河口容子
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