今年の秋もベトナムで講演を行なう予定です。幸い今年はベトナムに関するセミナーが日本で多く開かれ、じっくり情報収集や分析を行ないながら構想を練ることができそうです。先日は中部ベトナムへの投資促進セミナーがありました。ベトナムは北のハノイと南のホーチミンシティを中心に商工業が発達しており、中部というとダナン、フエ、ホイアン、ニャチャンといった観光地の情報が断片的にあるものの、ビジネス環境については限られており、今年の2月にクライアントの依頼によりベトナムに 100ケ所以上ある工業団地の調査をしましたが中部となるとほとんど詳細情報がなくお手あげ状態でした。
ベトナム政府の産業政策の基本は各地の特性を生かしながら地域格差の出ない経済発展を考慮しており、ここへ来て一気に中部ベトナムへの投資を促進するという事は北部、南部がすでにバブルに差し掛かっていることの裏返しのようにも思えます。また、最大の目玉は石油ガス公社による初の石油精製所が中部のズンクワットに建設されることです。ベトナムは産油国ですが、いままで精製をシンガポールに依存していました。この精製所が2009年に完成すれば近い将来国内で石油ガス、ナフサなどを生産できるようになり、石油化学関連プロジェクトが次々と発達する基盤ができます。
拡大メコン川流域のインフラ整備プロジェクトのひとつである東西回廊の起点がダナンであり、この回廊はラオス、タイ、ミャンマーを結ぶことからこの地域全体の物流拠点としての発展も期待されます。地下資源や農業分野にも可能性を秘め、何といっても最低賃金が月約45米ドルという安さも魅力です。
しかしながら、現在の日本企業の投資案件のうち中部へは全体のたった6%(件数ベース)にしか過ぎず、多くが製造業です。一方、米国、韓国など外国企業はリゾート、観光・娯楽関連産業への投資が目立ちます。ホアクオン新工業団地(500ha) の開発投資に深セン市の開発区が関心を示しているそうで、「ぜひ中国よりも日本に投資をお願いしたい」 とセミナーの席上でベトナム側から嫌中をにおわせる発言が飛び出しました。
外国企業は含み益狙い、コスト削減を徹底して追及しパイオニア精神を発揮するものの、日本企業はリスクを回避し、安定操業や駐在員の生活環境をまず重視する傾向にあります。そんな中で頼もしく思えるのは日本の物流会社が上記の東西経済回廊経由でハノイとバンコクを結ぶ「メコン・ランドブリッジ」を開発、7月に試走を行なうそうです。別の日本の物流会社は深センとハノイを結ぶトラックの定期便をスタートさせています。実は昨年の春、後者のハノイ支店を訪問しましたが、当時は中国―ハノイ間を試走中でそれにまつわるいろいろなお話をお聞きしました。東南アジアでよく見かける近代的なオフィスビルの一角にオフィスがあり、社旗が額縁のように掲げられていました。静止しているその旗が今にも風にはためきそうな活気を感じたと同時にベトナム人のスタッフたちはとても礼儀正しく、にこやかだったのを今でも覚えています。長らく紛争の多かったメコン川諸国をひた走る彼らのトラックはまさに平和と繁栄をもたらす使者です。
河口容子
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先日、ベトナム商業省チャン・デュック・ミン副大臣をリーダーとするミッションが来日、貿易セミナーと商談会が行われました。ご存知のようにベトナムは今年から WTOに正式加盟し、市場解放を加速させようとしています。2006年の GDP伸び率は8.17%、輸出金額も前年比22.1%増加しました。日本向けの主な輸出品は水産物、紡績製品、木材、手工芸品、靴、サンダル、電線、パソコン、パソコン部品、プラスチック製品、石油、石炭などです。
ベトナムにおける外資プロジェクトは約 7,000件、総投資金額(認可ベース)は約 628億米ドルです。日本からの直接投資は認可ベースで 764件、総投資金額は77億米ドルです。その中で約 340件が稼動しており、年間総売上は30億米ドル以上、10万人の直接労働者、数十万人の間接労働者の雇用につながっています。認可ベースの投資額ではシンガポール、韓国に次いで 3位ですが、既に投資された額では日本がトップです。
外資の力を借り破竹の勢いで成長しているベトナムが「戦略的パートナー」と呼ぶのは世界で日本ただ 1ケ国しかありません。面積が日本の 8割ほどで細長く、アセアン諸国の中では最も文化的にも日本と相容れるところが多く、風貌も近いような気がします。ただまったく違うのは人口構成で現在8500万人の国ですが、30歳未満(ベトナム戦争終結後に生まれた人たち)が 7割で、中国とは違い「二人っ子政策」、10年後は 1億人になり、若い力に満ちているところから市場としても非常に有望です。私が接する限り、親日的かどうかは別として反日・嫌日感情を持つ人はまず見当たりません。
かつてベトナムでネギを植え、安価な労働力を利用して「乾燥刻みネギ(インスタントラーメンなどについているもの)」を日本に輸出して一儲けした日本人の話を聞いたことがありますが、普通のメーカーがベトナムに工場を建てるならば日本など先進国が開発した工業団地に入らざるを得ず(標準設備を持つレンタル工場も団地内にはありますが)まとまった金額の投資を必要とします。こういった工業団地では停電に備え複数の電源を備え、風水害を防ぐ設計、排水用地下パイプライン、レストラン、給食サービス、税関、通関業者などの設備が整っているからです。だいたい日系の工業団地はすでに満杯、 1ケ所に何十社も日系企業が入り「日本村」を形成しているケースがほとんどです。彼らのほとんどは日本市場のみならず、インド、中国といったアジアの超大国やアセアン諸国の経済発展によるアジア市場の急拡大に目をつけているはずです。
一方、いわゆるチャイナ・リスク?電力不足、人手不足(定着率が低い)、人民元高、人件費の高騰、政治的不信、反日運動など?を懸念して、自社工場を持つレベルではないものの調達先を中国からベトナムへ(一部でも)シフトしたいという中小企業もふえています。しかしながらベトナムでは周辺産業が発達途上であり、ベトナム国内では素材が整わないものもあります。中国と比べれば距離も遠いので、輸送にかかるコストも時間もかかり、腰が引けてしまうのがほとんどです。特に商品のライフサイクルが短く、少量多品種展開が必要な業界においてはリスクを知りつつも中国頼みをしなければならないようです。そういう企業に限って万一に備え、ベトナムで準備を始めるという余力もありません。
だまされもしながら中国生産のおかげで生き延びてきた日本の中小企業も少なくないと思いますが、「ベトナム(ないしは中国以外のアジアの国)へ進出できるかどうか」が各企業にとっての真の国際化のベンチマークだと思います。
河口容子
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