今年の東京の桜は開花宣言直後に寒気が居座り、満開までじれったいほど。こんなに長く桜を見ることができたのはここ何年かの間では記録的ではないかと思います。私の自宅は玉川上水跡の桜並木や善福寺公園にも近く、またご近所には庭内桜の古木から桜の花が滝のようにあふれ出ているお宅など、常に桜に囲まれた暮らしです。
親子三代、 100歳近い方が車椅子で、お茶会の帰りなのか和服姿の女性たちと心なごむお花見風景があちこちで見られました。不況下での「安近短」なのかも知れませんが、自然とのふれあいが戻って来たのなら不況も悪いことばかりではないと思いました。
2009年 3月26日号「サクラ」で触れた香港の D氏に桜の写真を何枚か送りました。「本当にグッド・タイミングです。 L先生ご夫婦に刺身をごちそうになって帰ったところなんです。あなたのおかげで素敵な 1日になりました。」と返事が来ました。お花見をしながら刺身でも食べた気分になったのでしょう。実はビジネス・パートナーの L氏の夫人が香港の高校で英語を教えていた時の教え子が D氏夫人というつながりです。
日本のクライアントの女性社員からは桜に寄せて日頃の感謝とお礼をというはがきをいただきました。イタリア留学経験のある彼女ならではの小粋さかも知れません。お礼にオフィスの窓から見える桜の写真をお送りしたところ、さっそくPCの壁紙にしてくださったようです。「ふと手を休める時や考え事をする時に無意識の視線の先にこの自然があるとは何とぜいたくな。」と彼女。
2009年 3月 5日号「春の別れ」で触れたベトナム大使館の S商務官の送別会を取引先と一緒に都内の日本庭園で行いました。夜桜を日本の思い出として持って帰ってほしかったからです。連休明けに帰国する S商務官は引き継ぎ、引っ越しの支度と忙しい中、休日には日本の春を惜しむかのように家族連れであちこち出かけているようです。
この日驚いたのは S商務官の日本語力です。取引先の方に英語を話さない年配の男性がおられ、目上の人を大事にするベトナム人らしく、また私たちと親しいということもあってか、日本語でハノイの桜まつりの説明までしてくれました。今まで英語でしか話したことがなかったので損をした気分です。英語と仏語の得意な S商務官は日本に赴任後スクールに通ったそうですが、日本留学経験のある夫人に上のお子さんが幼稚園に通っていれば上達するのも当然。
「このローストビーフおいしいですね。どこの肉だろう?」と取引先の I氏。すかさず「サガギュ(佐賀牛)」と S商務官。「参りました。」と日本人全員。
「北朝鮮のミサイルはこわかった?」と S商務官が私に聞くので「いいえ。」「どうして?」「だって逃げる暇もないじゃありませんか。」取引先の T氏は「ベトナムって北朝鮮とは仲がいいんですか?社会主義国だから交流がありますよね。」「はい、ベトナム戦争の時は北朝鮮が支援してくれましたから友好国です。」「ベトナムって米国も中国もロシアも仲がいいんですよね。そういう国に北朝鮮問題を手伝ってもらえばいいのに。」と T氏。
「商務参事官は 2度目の日本ですから Sさんもきっとまた日本に赴任されますよね。それまで私たち長生きして待ちましょう。」と私。取引先の方々は皆私より年上、一方、 S商務官は30代。一気に明るい笑顔が広がりました。眼下にはライトアップされた大きな夜桜。「ロマンティックですね。ここへは初めてです。本当にきれい。子どもたちは日本で生まれたのでベトナムに慣れるまで大変です。」
春は桜、桜は春。今年もいろいろな思い出を作ってくれました。
河口容子
【関連記事】
[333]サクラ
[330]春の別れ
[329]今が狙い目のベトナム
この原稿を 2月22日に書いています。今日はベトナムの中部クアンガイ省ズンクアットでベトナム初の製油所が稼働した日です。ベトナムは高品位の原油産出国でありながら国内に精製設備を持たなかったため、石油製品を輸入に頼っており、昨年の原油高騰時には大きな打撃を受けました。私の日本のクライアントもベトナムでの生産が何とか軌道に乗りそうですが化学繊維やプラスチック製のパッケージなどベトナム国内の調達が困難で苦労しています。この製油所のおかげで一気に問題解決が進むわけではありませんが、ベトナムの中部地域は今後石油化学産業の集積地として期待されています。
先週はベトナムの計画投資省ファン・フー・タン外国投資庁長官が来日、東京のホテルで開催された投資セミナーに行って来ました。相変わらずの超満員で補助席が用意されるほどの盛況ぶりです。ベトナムへは昨年の春以来行っておらず、しばらくごぶさたの感もあったのですが、ベトナム大使館の商務参事官、商務官も「お元気でいらっしゃいましたか?」と温かく迎えてくれました。
セミナー講師の一人として来日されているJICA専門家の I氏を上述の日本のクライアントとともにハノイのオフィスにお訪ねしたのはもう3年前のことになります。 I氏にベトナム生産の現状を報告すると「ビン・ズオン省か、南ですね。うまくスタートできて良かった、良かった。」と大喜び。
このエッセイでも昨年ベトナムを直撃した経済不安についてふれましたが、それでも2008年の GDP成長率は 6.2%で、2009年も 6.5%の成長率が予想され、日本とは大違いです。もちろんアジア地域内では中国に次ぐ成長率を誇っています。ベトナムの輸出品目で世界一は胡椒、世界 2位は米とコーヒー、世界 3位は靴とカシューナッツ、ゴムは世界 4位、水産品は世界のトップ5です。読者の皆様にとって意外な商品がありましたか?
アジアの新興国は外国投資に依存する部分が大きいのですが、世界中からのベトナムへの投資はこの20年間で9707案件、認可された投資額の総額は1454億ドルです。これは何と GDPの54.6%、工業生産額の35%に貢献しており、 146万7000人分の雇用を創出しています。日本からの投資は昨年 105件認可されていますが、投資認可総額では73億ドルと過去最高の数字です。このうち62億ドルが出光興産、三井化学他による精油所・石油化学コンプレックス建設案件です。一方、ベトナム国内でも起業の奨励を行っており約35万社の民間企業があるそうです。8616万人の人口のうち30歳未満が何と60%以上ですからこの活力はまだまだ続きそうです。
とはいえ、世界同時不況の影響は少なからずあり、米国、EU、日本の急速な景気後退により輸出産業の中には操業短縮、一時帰休、希望退職を行っている企業もあるようですが、内部組織の見直し、社員への再教育の機会ととらえている企業もあるようです。逆の目から見れば、ここ数年が外資の進出が急増、人材の確保が懸念されていましたが少人数なら採用は容易になっており、離職率も低下しています。不動産もかなり下落している地域もあるとか、「今が狙い目」と力説する講師陣でした。
河口容子
【関連記事】
[311]危機を克服するベトナムと新しいハノイ
[295]ベトナムを襲う経済不安