[017]感謝されること、感謝すること

 景気を映してか、愚痴っぽくなったり、自分のことしか考えられない人が急増しているような気がします。そんな中で昨年末、あらためて知った喜びは「感謝され、感謝すること」でした。
 ひとつめは、フィリピンから来たメールです。昨年3月に訪問したソルソゴンという小さな町のバッグメーカーの若いご夫婦からです。私は国際機関の仕事で日本向けの商品づくりのアドバイスをしたり、日本で行う展示会への出展業者の選別を行うのが目的でした。マニラから飛行機で1時間、そして車で2時間かけてたどり着いたのは日本の終戦直後のドラマのセットのような町でした。1週間程度の休暇ならともかく、都会に住み慣れた私には365日ここで過ごすのにはとても自信がありません。奥様は静かで知的な中国系のフィリピン女性で、仕事にかける情熱を淡々と語ってくれました。彼女を何とか日本の展示会に出して勉強させてあげたい、と私は思いました。「もし選ばれても子どもたちが小さいので主人が東京へ行くことになるでしょう。それでも選ばれたらうれしいわ。」無事フィリピン政府機関の審査もパス、6月からの商品展示、7月の商談会には夫婦そろって来日することができ、商談の成果もあがりました。年末のメールには「私たちはあなたの事をずっと忘れません。東京に行けたことも忘れません。また、お会いできたらと心から願っています。」と書いてありました。この仕事がなければ私はこの町を一生知ることもなく、ましてや彼らと知り合うこともなかったでしょう。こんな暖かな出会いを得られた事に思わず感謝しました。
 そして、香港のビジネスパートナーの投資家の兄弟です。大晦日の日に私はお礼のメールを書きました。「今年、あなた方と一緒に仕事ができ、お互いを理解し合えたことは大きな喜びです。豊かな発想を与えてもらい、励ましてもらい、支えてもらい、良い思い出や経験をすることができました。」兄からの返事には「まったく同じ気持ちです。あなたの献身と勤勉さにあらためてお礼を言いたいと思います。」弟からは「いつも迅速かつ専門性に富んだ対応とアドバイスに感謝します。あなたのプロ精神は実に素晴らしい。」特に昨年9月からはかつて体験したことのないほどの心身ともにハードな仕事環境でしたが、風邪ひとつひかず乗り越えられたのも、このお互いに感謝し、感謝される喜びがあったからではないでしょうか。
 先週は海外とのコミュニケーションは大変だと書きましたが、誠意は絶対通じるものです。通じたら、外国人の方が表現力は豊かですから、日本人より何倍もの感謝やおほめの言葉をいただく事ができます。「意味のある仕事」ないしは「良質の仕事」をした思いでいっぱいになるうれしい瞬間です。
河口容子
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eメールの挨拶状

そろそろ人事異動のシーズンです。入社、転職、退職と人生の節目を迎える方もあるでしょう。結構頭の痛いのが挨拶状です。住所、電話番号、メールアドレスなどが確定しないと挨拶状の発注ができないし、新しい職場や仕事そのものに慣れるだけでも大変な時期に宛名を書き、切手を貼り、投函するというのもなかなか面倒なものです。そこで今回はeメールによる挨拶状の話題です。すでに若者やIT業界などでは当たり前でしょうが、ごく一般的な企業の中高年、特に管理職の方々へもおすすめしたいと思います。

ここ2-3年はメールによる挨拶状を多用しました。メリットは多々あります。

1)費用が安いこと。特に海外へはとても経済的。お知らせだけ、というなら同報メールで複数へ一度に送ることも可能です。当然時間の節約にもなります。
2)文面のアレンジが簡単なこと。印刷物ですとどうしてもフォーマルで大げさな文章になるか、定形の面白みに欠けるパターンになります。メールですと少しカジュアルな文面が可能です。基本パターンをいくつか作って、相手によって心のこもった一言を付け加えることが可能です。
3)相手のメールアドレスは知っているけれども自宅の住所がわからないという場合も便利です。

最大のメリットは返事をたくさんもらえることです。私は筆まめな方ですが、異動の挨拶状を郵送されて、すぐ返事を書いたり、電話をしたりはなかなかできません。メールだと返信ボタンを押すだけで簡単なせいか、筆不精と思っていた方からもちゃんとお返事がいただけました。紋切り型の返事、「今度はどんなお仕事をされるのですか」のような素直な質問、思い出をつらつらとつづっているうちに異動の話からすっかり脱線している人などと、それぞれの個性が伝わり、今までこんなに多くの方々に支えられていたのだと改めて感動、感謝したものです。それが次の人生への励みになって来ました。

デメリットもあります。うっかり削除、あるいはPCのトラブルで連絡先がわからなくなる事があります。いただいたら念のためフロッピーに保存するかプリントアウトしましょう。連絡先をレイアウトするときは印刷して切り取ると名刺サイズになるよう考えるともらった人はファイルしやすく便利です。  かつて退職された方が「辞める時は皆善人」と教えてくれました。あまりしっくりいっていなかった相手ですらお礼や励ましの言葉をかけてくれます。それを受け止め、本人も「あの人はこんなにいい人だったんだ。誤解していたかも知れない。」などと反省したりします。社交辞令と言うなかれ、まさに人生のターニング・ポイント、心の見直しポイントかも知れません。

期待にふくらむ春、ちょっぴりさびしい春、新しい人生にチャレンジする春、さて読者の皆様はどんな春をお迎えでしょうか。異動の挨拶状やメールを受け取ったら思い切り励ます返事を出してあげてください。あなたも相手も善人になれる春です。

2001.03.16

河口容子