[345]メールは生活の一部

 4月からパートナーとなった香港の国際経営戦略コンサルタント会社の D氏(彼は代表パートナーなので上司とも言えます)は、2008年11月 6日号「マナーブームと可愛げ」の終わりのほうで触れたように実にメールの返信が早い人です。おかげでしばらく返信が来ないとメールが届いていないのではないかと確認をします。案の定、届いていません。香港はウイルスのメッカとあってプロバイダーのセキュリティ・チェックが厳しいようです。
 先日、 D氏がバンコクに出張し、 5通くらい一切返事がないものの「出張中だから忙しいのだろう」「帰ってからと思いゆっくりしているのでは?」と勝手に思っていたところ「香港に帰って来ました。最近あなたからメールをもらっていないけど、メールをくれなかったんだろうか、それとも受け取れなかったんだろうか?」というメールが来ました。この配慮は素晴らしいと思います。
 「私からメールがなくてバンコクではゆっくりできたでしょうね。香港に帰ったらメール魔の事を思い出したんですか?」「そんな事はないよ。いつも気にしているよ。メールがない生活なんて考えられない。どこに行ってもちゃんとチェックするんだから。」そういえば先日広州のマクドナルドで雨宿り中の D氏にメールでえんえんとつきあわされたことがありました。
 PCを出張に持っていく人は本当に偉いと思います。私はミニノートPCも持っていますが洋服と化粧品が優先なのでPCはいつもあっさり切り捨て。その代り帰ってくると何百ものメールがにぎにぎしく、時にはにくたらしく出迎えてくれます。
 まさにメールは私たちのような職業にとって天からの贈り物です。相手一人につき 1日 5往復くらいする日はざらですし、大量の資料やデータを圧縮して添付することもあります。このやりとりを電話や FAXでやっていたら通信費で破産するに違いありません。契約書や請求書といったサインの必要なものも PDF形式にして電子署名をして送れば郵便代と時間も節約できます。
 私が会社員になった頃はメールも FAXもなく、海外の通信手段は電話かテレックス(電報)か郵便でした。新人として配属されて与えられた仕事のひとつが先輩たちがテレックスに対しきちんと返事をしているかのチェックでした。先輩に対し「早く返事を出してください」と言うのは新人の分在では抵抗があったのですが、上司は大阪弁で「返事をしなければ、受け取ったのか受け取っていないのか、本人がいるのかいないのか、わからんやろ。なんぼ、会議や出張前だからとほったらかしにせんと 明日返事します とか  1週間待ってください と返事しなさい。たった 1行のことや。どんな事があってもほったらかしは 2日まで。」と怒り続けるのでした。もちろん不在の先輩たちに代わって 1行のテレックスを出すのは私の仕事でした。
 外国人はどうやらこのマナーを心得ているらしく返事は結構早くいただけます。日本人については二極分化で矢のように返事が来る方と電話で催促しなければ永遠に返事が来ないタイプにだいたい分けられるような気がします。普通の書面よりメールはくだけたツールと思うものの、やはりビジネス目的ならある程度のフォーマリティを備えた対応をしていただきたいものです。
 私はメールを多用しますが、万能主義ではありません。メールはセミプライベートの目的までで、プライベートはすべて手書きで郵送しますし、いただくのも手紙が好きです。手で書いて、切手を貼って、ポストに投函するという作業と時間を経るせいか、相手の心が文面よりも行間に匂っているような気がするからです。これはメールがどんなに進化しても勝てない部分でしょう。
河口容子
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[289]Thank Youレター

 先週先々週とベトナム出張の話を書かせていただきましたが、帰国後真っ先にする仕事が「Thank Youレター」を書くことです。Thank Youレターはお礼状のことですが、日本語でお礼状と言うと何か形式ばった特別なイメージがありますのでここではあえて Thank Youレターと呼ばせていただきます。現地でお世話になった方々には無事帰国したこと、滞在中の配慮やもてなしに関するお礼を述べます。また、日本から同行したクライアントに対しても出張中お世話になったお礼を書きます。そして、印象に残った事、説明しそびれた事、懸念事項があれば書き添えます。相手が語学力に問題があり、十分理解してくれたか不安な場合はポイントを再度さりげなく書いておくこともあります。ここまですれば、単なる儀礼を越えて自分にとっても出張のまとめとなります。
 感動した Thank Youレターがあります。会社員の頃、ニューヨーク、オレゴン州ポートランド、ロサンゼルスと2週間ほどかけて出張しました。帰国後PCを開けるとポートランドで面談した取引先のVIPからのThank Youレターが入っていました。「そろそろ日本に帰ってほっとした頃だと思います。先日はご訪問いただき、また、いろいろ話し合うことができありがとうございました。あなたが下さったチョコレートのおかげで私もちょっぴりスイートな人間になったかも知れません。来月日本へ出張することになりましたのでまたお目にかかれるのを楽しみにしています。」というような内容だった記憶がします。通常は目下から目上に Thank Youと言うべきですが、雲の上のような方から先にいただけるのは「高い評価」を示唆するものであり、またあたかも「お帰りなさい」とでも言ってくれているかのようなタイミングを計っての配慮に思わず頭が下がり、出張の疲れも吹き飛びました。
実はこの取引先は表敬訪問を一切受け付けてくれないので有名です。私としては大切な取引先でもあり、またこの VIPは私を初めての国際会議にデビューさせてくださった恩人でもあるので現地に行った以上素通りはできません。どうしてもお礼を言いたいという念が通じたのか、異例の面会がかない、それも大変温かなもてなしを受けました。感謝の心は連鎖するという良い例だと思います。
 香港のビジネス・パートナーが日本への出張から帰った頃にも「無事に帰国されたことと思います。」で始まる Thank Youレターを出します。すると「滞在中はいろいろありがとうございました。慌しくて大変だったでしょう。しばらくゆっくり休んでくださいね。」というような返事が来、気心が知れている仲であっても、お互いに更に快く次の仕事へと移って行けます。こういうメリハリもThank Youレターの効用です。
 特別な配慮をしていただいた時、いただきものをした時、ごちそうになった時、まずはThank You レターです。相手に感謝する、これはビジネスでも基本中の基本です。タイムリーに、そしてその人らしい言葉で Thank Youレターをいただくと知性、品性、感性を感じます。電話ではだめか、という方もあるでしょうが、相手が忙しい時に電話をしてもかえって迷惑な場合もありますし、目上の方にいきなり電話をしてお礼を言いにくい場合もあります。今はメールという便利なツールがありますので、私はビジネスでのThank You レターはほとんどメールで出すことにしています。最低 3-5行ですむことですから、これを面倒だなどと言うようであればとてもビジネスなんてできはしません。
  Thank Youレターはお詫びやクレームを書くよりははるかに楽なはずです。それなのにきちんと書ける人は案外少ない気がします。感謝を表すことは自分も前向きな気持ちになれますし、もちろん相手をも幸せな気分にさせます。ビジネスや人間関係に行きづまりを感じたら素直に感謝を表現できる自分をまず取り戻すことをおすすめします。
河口容子
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