[259]統計の裏を読む

 私自身は2002年からアセアン諸国の政府機関主催のセミナーで消費財に関する日本市場の特性や日本人ビジネスマンとの交渉のしかたをアドバイスしています。アジア諸国の経済成長とともに日本市場への売り込みは熾烈な競争となっています。統計数値からいえば日本は非常に大きな市場だからです。
 日本市場の大きな特徴は四季の変化を生活に取り入れる文化があり、衣食住に季節性があります。季節の変化が消費を促し、小売店の店頭も商品の入れ替えをするため納期が重要な問題となります。また、二極分化したと言いつつも、1人の消費者が 100円ショップへも行けば、高級ブランドも買うといった個々人の価値観やこだわりによる選択的な消費をするため、少量多品種の品揃えが必要となります。また、どんなルートで流通させるかも大切な課題です。
 ところが、通関統計の数字だけ見て、「このうちのたった1%のシェアを取れば良いのだからややこしいことは言わず売り先をどこか探してくれないか」というご依頼が結構あります。特に最近増えたのはアジア企業の日本の駐在員から販売活動をかわりにやってほしいというご依頼です。おそらく立ちはだかる言語、文化、産業構造の壁にお手上げ状態なのでしょう。
 11月のベトナム講演のために日本の輸入統計の推移を見ていました。普及品の木製家具といえば伝統的にアセアン諸国の代表的な産品です。2000年に中国からの輸入は ASEAN諸国全体の約半分くらいの金額でした。ところが2004年には中国は ASEAN諸国全体の 1.5倍と急成長します。中国企業が成長した事ももちろんありますが、日本の生産拠点の中国シフトが進んだからです。日本の資金のみならず、技術やデザイン指導といったものも広義の投資と見做せば投資先の国からの輸入がふえるという訳です。 ASEAN諸国の中で唯一ベトナムだけが伸びていますが、これも伸び盛りの国であるという事に加え、チャイナリスク回避からのベトナム進出という世界的な動きも原因のひとつです。
 これは他の産業にも言えることですが、韓国、台湾、香港の企業も一気に中国進出が進んだ時期があります。たとえば日本企業が韓国企業と取引したり、そこへ投資をしていたとします。この韓国企業が中国へ生産拠点を移せば、日本企業はその商品を韓国ではなく、中国から輸入することになり、また中国の工場へ間接投資していることになります。商品は同じであっても国別の輸入統計上は韓国の数字が減り、中国が増えることになります。
 バッグ類が良い例で、日本の輸入金額の約半分が中国です。 4割が高級ブランドを送り出す欧州です。普及品の中国製と欧州ブランドの中間に位置する国産のバッグというのは衰退の一途をたどっています。 ASEAN諸国からの輸入は2000年と2001年をピークに下降の一途をたどっています。アジア雑貨ブームが一段落し、 ASEANの良さを生かしながらも日本人の現代生活にマッチした「ものづくり」が進んでいないからでしょう。また、バッグというのは流行に左右されますし、デザインのみでなく機能性も重要な商品です。機能性素材や多種にわたる部品などの調達が中国レベルの工業国になっていないとなかなか難しいのも原因のひとつです。
 各国から見れば「対日の輸出高が減った、増えた」というだけですが、統計数字の裏には実にいろいろな事情が潜んでおり、いかに読み解くかが大切だと思います。
河口容子
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[158]空飛ぶキティちゃん

キャラクターを中心としたライセンス・ビジネスの国際見本市「ライセンシングASIA」は、文化の香りがし、喧騒のない秋らしいイベントです。
同時に開催されたセミナーでは中国市場の最新情報を聞くことができました。子ども以外を対象とした調査では、漫画を「非常に好き」「好き」と回答した人が 4割を超え、アニメについては 6割が「非常に好き」「好き」と回答していることから、もはや漫画やアニメは子どもだけのものではないという認識のようです。アニメに関して中国製は人気がなく、日本、韓国、欧米のものを希望している人が圧倒的多数です。「クレヨンしんちゃん」「ちびまる子ちゃん」の認知度は何と 70%を越えます。ただし、中国政府は輸入量と放送量の面において規制を行なっています。
キャラクター商品についても「よく買う」人が12.9%、「たまに買う」人は44.5% ですが、中国は海賊商品が「業界スタンダード」で、本物の販売よりニセモノが先行するケースも多々あります。特に、 DVDやCDの 85%が海賊版で、法的保護が強化されるとともに、売る側も低価格の正規品を出し海賊版の横行を防止するという策も取られているようです。人口の多さからみれば「薄利多売」で十分利益が出るということでしょう。
 TVドラマについては、中国でも韓流が圧倒的な強さを誇ります。2004年10月15日号「日中韓のキャラクタービジネス」でも触れましたが、韓国は国を挙げてコンテンツ・ビジネスの輸出を推進しています。韓国ドラマはアジアのみならずアラブ諸国にも輸出されていますが、ドラマに登場する韓国製品の有力な宣伝媒体ともなっています。日本でも韓国ドラマは流行っていても、ライフスタイルや製品への憧れはあまりない、この視点が欠落していたわけです。というわけで日本政府もコンテンツ・ビジネスの輸出へ向けてやっと腰を上げました。
 そんなところへ飛び込んできたのが台湾のエバー航空のハロー・キティづくしのエアバスです。機体のペイントはもちろんのこと、壁紙、客室乗務員のエプロン、紙コップ、搭乗券などなどにいたるまでハロー・キティがついているらしく、3年間台北と福岡を往復します。日本好きの台湾人を観光に呼び寄せると同時に航空会社側としてもキャラクターの力を借りてオフシーズンの稼動率を高めようという狙いのようです。同業のシンガポール航空も長らくハロー・キティがマスコットです。空飛ぶキティちゃんは日本の親善大使でもあり、国際ビジネス・ウーマンとも言えましょう。
 中国のあるコンビニが客単価を上げるために「一定金額以上買ったお客様」に著名キャラクター・グッズをさしあげますというキャンペーンをやったところ想像以上に数字があがったそうです。中国でも「鉄腕アトム」を見て育った世代が30代となり、その子どもたちも含めれば巨大な市場になります。少子高齢化に入った日本では、中高年をターゲットとしたビジネス構築をせざるを得ませんが、アジアの国々では人口構成が違うことを思い起こせばビジネスチャンスが見えてくるのではないでしょうか。
河口容子