[305]アセアン横丁での再会

 「当社は東京インターナショナル・ギフトショーに出展いたします。私も日本に行きますのでぜひ当社ブースに起こしください。」というメールをくれたのはベトナムの商社勤務のN部長。2007年 9月13日号「在日ベトナム人の目」に登場するハノイ在住のキャリアウーマンです。私にとってハノイ出張は彼女との楽しいひとときが必ずあり、また彼女が東京へ来れば私と会わない事はない、そんな仲です。
 ギフトショーでは海外出展者は各国の貿易機関がまとめて場所を借り、企業に割り当てる方式を取っているところが多く、今年は初めて会場に「ベトナム・パビリオン」の看板が高々と挙がりました。彼女と部下の新入社員の男性に挨拶をすると、まずはブース内のディスプレイの修正。日本人の来場者はなかなかブースの中へ踏み込まないので、日本人の興味を引きそうなアイテムを通路側に移動し、色や大きさのバランスも考えて配置します。
 彼女に昼食をおごるからと約束していた私は別の棟のイタリアン・レストランへ。二人で食事をするのは初めてです。「私が日本に来た日に福田さんが首相を辞めました。ベトナムでは途中で首相が辞めるなんてことはありません。」「日本は首相が辞めたって別に困らないんです。いいような、悪いような。」「そうね。日本はみんな、それぞれ一生懸命働いていますからね。困りませんね。」こんな時代に首相になるには覚悟がいります。強い心と実力を兼ねそなえた人は政界にいないのでしょうか。
 「今年は人が少ないです。」「日本は景気が悪いのですよ。」「ブース代 9平米 4日間で 360万円です。」「香港のギフトショーも同じくらいでしょう?でもあちらは人がたくさん来るし、その場で発注がもらえるわね。」「だから、日本へはもうほとんど出て来れないです。」そう思うのは彼女だけではないでしょう。
 「そうだ、私昇格したんです。ふたつタイトルを持っています。副社長と会長です。」「まあ、すごい。おめでとうございます。じゃあ社長さんも変わられた?」社長とは 3度ほどお目にかかったことがあります。「変わりました。」「ベトナムでは退職後はどうするの?どこかで仕事をしたり、自分でビジネスを始めたりするの?それとも遊んでるの?」「社長などの場合はだいたい監査役とか顧問で残ることが多いです。前の社長は遊んでます。」この会社は元国営企業、ハノイ本社だけで従業員 150名。もちろんホーチミン市をはじめ主要都市には支店があります。
 「ハノイでは食料品はどこで買うの?」「市場かスーパーマーケット。でも市場が多いかしら。」「洋服は?」「知り合いがお店をやっているのでほとんどそこ。」「じゃあ、そのジュエリーは?」大きなダイヤモンドの指輪 2本、時計にもダイヤモンドがきらきら。「だんなさんが買ってくるから知らない。」そのご主人は化粧品会社の社長とか。息子が二人いて、上は16歳。高校卒業後は米国に留学させる予定だそうです。典型的なキャリア・カップルの富裕層です。
 「ベトナムでは専業主婦っていないの?」「ほとんどいませんね。だって男女平等だし、働いたほうが得じゃないの。」「では、家計は誰が管理するの?」家庭によりけりです。だいたいは夫婦でそれぞれ必要な分を取って残りを共通のお金にします。」彼女は日本に来ると靴を買うのが楽しみだそうです。「革が柔らかいんですよ。履き心地が良い。」この日も銀座のデパートで買ったという1足3万円以上もするぺたんこ靴を履いていました。展示会続きで時にはヨーロッパ域内を転戦する彼女を支えるグッズのひとつかも知れません。
 ベトナム・パビリオンでのもうひとつの再会は2007年12月 6日号「ベトナムで教える、ベトナムで学ぶ」に出てくるハテイ省の竹細工の10億円企業の社長です。「先生、お立ち寄り下さりありがとうございます。」最近、ハテイ省はハノイ市に併合されたので「社長、どうですか、ハノイ市になったご感想は?」「私はハテイはハテイのままのほうが良い気がします。」「私も同感です。それぞれ特徴があって共存しているのが好きですね。それに初めてのセミナーはハテイだったので思い出の場所ですから。」
 その他、インドネシアのブースでは2006年 9月14日号「アセアン横丁のにぎわい」に出て来るカメのぬいぐるみをくれた女性。彼女のジャカルタのブティックは今も日本人客で盛況のようです。マレーシアの貿易機関の日本人職員は「さすが、この辺の顔ですね。」と私を冷やかした後、口癖の「マレーシアもうかうかしていると大変。」と来場者への説明やら他国ブースの視察と動き回っていました。アセアンの人たちがくれる元気と癒し、ずっとそのままでありますように。
河口容子
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[204]アセアン横丁のにぎわい

[272]中国の輸出規制策と日本の中小企業

 中国は「貿易黒字削減のための輸出抑制」、「環境保護」、「ハイテク企業誘致」、「労働集約型企業の淘汰」、「高電力消費企業の退場」を促すために昨年の秋から「加工貿易禁止品目」と「増置税」に関する合計4つの通達を出しています。また、一部輸出関税の増加の通達も別途あり、さらに輸出を抑制しようとする動きもあります。ちなみに中国の2007年の貿易黒字は 2,622億米ドル(約30兆円)です。
 加工貿易とは材料や部品を外国から輸入し、それらを加工して輸出するもので、材料や部品の輸入については免税輸入するのが原則です。加工貿易禁止品目でも一般貿易なら良いということですので、材料や部品輸入に関する関税を支払えばビジネスは継続できるものの当然のことながらコストは上がります。中国からの輸出については一般貿易の額よりも加工貿易の額のほうが多いので、輸出の際海外にコスト増を価格転嫁できない場合、その中国企業は廃業せざるを得ません。
 もうひとつの増置税とは日本の消費税の運用とよく似ています。日本では輸出取引は免税取引で、その取引のための仕入に係る消費税が全額還付対象となります。ところが、中国の場合は品目により増置税の還付率が変わります。つまり、政策上好ましい産業については還付率が大きく、好ましくない産業については還付率が低い、もしくはゼロとなります。これも当然、還付率が低い産業についてはコスト増となります。
 昨年訪問した広東省東莞市にある韓国系のぬいぐるみ工場によれば、労働者不足、人民元高のみならず、労働法も改正され人件費のみで今年から30%増となったそうです。従来からベトナムでも操業していたので、今年は主力製品の製造をすべてベトナムに移管することにしたそうです。この企業のようにすぐ移転するあてがある企業は良いものの、いわゆるファブレスで自社工場を持たず、中国の提携工場に生産してもらい日本市場で販売している日本の中小企業はどうするのでしょう?中国生産にこだわるなら値上げをのむしか方法がありません。特に労働集約型産業は沿岸部からどんどん内陸に入っていくため輸送時間やコストもかさみます。これらのコスト増が消費不況の日本でどこまで消費者に受け入れられるかが問題です。
 中国に代わる生産国としてベトナムをあげるビジネスマンが多いものの、たとえば雑貨については戦争や紛争が長く続いたため、まだ裾野産業が十分に発達していません。また、中国と比べると輸送距離も長くなり時間とコストがかかります。ベトナムの人件費は中国にくらべかなり低いですが、部品数が多く、短期間に少量多品種展開をしなければならない婦人用のバッグなどはかなり厳しいものがあります。一方、ベトナムの主要輸出品目でヨーロッパ諸国へ輸出実績のある靴などは大いに可能性があります。
日本の中小企業にとっても体力を問われる中国の輸出抑制策。カンボジア投資ミッションはあっという間に定員に達し、メコン地域への投資セミナーも 250名の出席者は抽選。この地域への進出が他国に比べて遅れていた日本の中小企業にも正念場がやって来ました。
河口容子
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