[331]産業構造の見直し

 先週号でふれたベトナム大使館の S商務官との雑談の中に日本の自動車産業の落ち込みという話題がありました。世界に冠たる日本の自動車産業はアジアの新興国にとって憧れでもあります。「私が子供の頃、日本は資源がないから、材料を輸入し加工して輸出することで儲けると習いました。ところがいつしか日本は何でもかんでも輸入するようになり、輸出の大切さを忘れてしまったようです。」と私が言うと「でもこの世界同時不況が日本にとっても産業構造を見直す良い機会になるのではないでしょうか。」とS商務官。
 この後、帰ってから調べたところ GDPに対する輸出や輸入の比率を輸出依存率、輸入依存率というのですが、日本はいずれも10%以下で先進国の中でも最も低い部類です。シンガポールや香港は輸出入とも 100%を超えるのでこれぞ貿易立国です。となれば自動車産業の輸出が落ち込んだところで日本経済に影響はないはずですが、日本の自動車産業は部品の国内調達率が高く、裾野の末端の所まで影響をもろに被ってしまうからのようです。そしてこの産業で働いている人が利用するレストランにいたるまで不況が及ぶ、まさに「親ガメこけたら皆こける」方式の構図の弱点が露呈してしまったわけです。
 貿易に頼らず GDPを伸ばすには物価を上げる、公共投資をふやす、消費活動をさかんにするなどがありますが、いささか無理があり、やはり外部利益の獲得に精を出すのが得策と言えます。バブルの頃、日本は豊かな国家であるにも拘らず原料輸入ばかりで製品輸入が少ないと欧米に叩かれ、官民を挙げて製品輸入に力を入れました。総合商社で社内キャンペーンと当時の通産省の輸入促進の窓口との折衝をを担当していたので忘れもしません。その後、ブランドブームもありました。今では個人輸入、小口輸入と小規模なレベルまで輸入業務は裾野が広がっています。
 輸出と輸入は逆の手順かと言うと、ポイントはまったく違うところにあります。輸入は法律で禁止されている商品以外はお金さえあれば何とかなります。ところが輸出は海外の市場へ売りこみ、かつ海外企業から代金を回収する必要があるため、海外で競争力のある特定の商品を扱う特定の企業しか輸出をやっていません。「輸出」という言葉を理解できても「輸入」と比べ身近に感じない日本人が多いのはそのせいだと思います。
 政府としてはここ数年は特に輸入の奨励はやめて輸出に切り替えています。日本の農産物や日本酒の輸出などもその成果です。私も香港向けに日本酒を輸出していますが、 720ml瓶が 1-2万円の商品でも難なく売れる市場です。鹿児島の焼酎メーカーなどは自社でコンテナ単位で各国に輸出もしています。
 私の会社の売上のほとんどは海外のクライアントからの入金です。「外国人の肩を持つコンサルタントなんて国賊」とおっしゃった方がありますが、勘違いもはなはだしく、外貨の獲得にわずかばかり貢献をしていると自負しております。モノの輸出ではなくサービス(役務)の輸出となりますが、日本人は輸出できるノウハウや技能をたくさん持ちながら生かしきれていないのも国内ばかり向いて海外で仕事をするという発想に乏しいからでしょう。
 小泉首相の頃から観光立国をめざし、特に豊かになったアジアの人たちが日本にたくさん訪れるようになりましたが、英語や中国語で応対ができる施設の比率はまだまた低い。また、日本市場はピンからキリまで実に幅広い品ぞろえの商品があふれているのに、たとえばネット通販にしても海外発送をしてくれる所は数えるばかりです。
 国際化、それは面倒で困難な事かも知れません。時にはリスクを背負うかも知れないし、非効率的な部分もあるかも知れません。でも、挑戦せずして前進はなし、私は日々そう思って仕事をしています。
河口容子
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[098]チームプレイ

 サッカーのアジアカップでの優勝は、激しいブーイング、異常な暑さ、遠距離移動、延長戦と悪条件をひとつひとつクリアしてきた結果だけに良い夏の思い出となりました。選手個々の良さを生かしながら、最終的にはチームプレイの勝利であったと思います。正直なところ、日本選手は強くは見えません。その代わり、団結心、粘り強さ、セットプレーでの精度などはすばらしいものがあります。また、マナーを欠く中国人サポーターの挑発にはのらず、日本人サポーターはブルーに PEACEの文字をプリントした Tシャツを着ている人や日中友好の垂れ幕を持っている人を見かけ、大人の国として誇りすら覚えました。
 ビジネスの世界もこれと同じで、やはり日本人の長所はマナーの良さやチームプレーの巧さにあると思います。ある時、私の香港人パートナーの兄のほうが言いました。「日本の組織はどうして放っておいてもちゃんと仕事ができるのだろう。」「日本の大企業では組織対組織の対立もあったり、決して仲よくやっているわけではないのですよ。」と私。「それでも結果として仕事はするでしょう?中国ではあり得ない。」確かに中国は米国と同様トップダウンの経営法ですし、中小企業の多い香港ではオーナーが何でも自分で仕切ります。もともと転職社会であり、会社に忠誠心がある優秀な中間管理職(現場の長)を得にくいということもあるのでしょう。
 おまけにパートナーの弟のほうは英国とシンガポールでも開業資格を持つ弁護士ですが、国際人を自負する彼ですら「日本は信頼関係の上にビジネスが成り立っている。すばらしいことだ。どうしてそうできるのだろう。」という有様です。中国人は基本的には個人主義できわめてドライです。香港人たちを見ていると利益になればすぐくっつき、利益にならなければ音沙汰もない。それで終わりではなく、利益になると知ればご無沙汰も詫びずどこからか現れるところがけっさくです。日本人のように「前回嫌な思いをしたから二度と会いたくない」などというセンチメンタルな発想は一切ありません。彼らにとってビジネスは勝つか負けるかのゲームのようなものかも知れません。

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