先日、香港から物流関係機関および業者が10数団体「香港ロジスティック・ミッション」として来日し、セミナーが東京と大阪で開催されました。私は東京の会場であるホテルに行ってみたのですが、まさに大入り満員でした。
貿易商の家に生まれた私は「香港トレーダー」というと子どもの頃から身近な憧れであったし、総合商社に入社したときは船舶の輸出をしていましたので香港の海運業の著名オーナーたちも取引先でした。時は流れ、香港が本土に返還されると一国二制度と維持したとはいえ、中国ビジネスの拠点は上海へ奪われてしまいました。そこで、失地回復とばかりに本土とのCEPA協定(香港と本土との自由貿易協定)を結び、中国ビジネスのパートナーとして金融、法務にすぐれた制度を持つ香港を活用してください、というキャンペーンを始めたわけです。香港は珠江デルタ地域にありますが、この経済圏は関東地方と同じ大きさに韓国と同じだけの人口を持ち、 GDPは台湾とほぼ同じです。中国の輸出入の三分の一がこの地域に集中しています。この地域に進出している外資系企業は 8万社にものぼります。
私自身はたまたま香港の投資家が知人が話を持ちかけてくれたのとその弟が弁護士なので迷うことなく一緒に香港および中国でのビジネスを展開していますが、日本の知人には台湾人をパートナーとしている人もいますし、最近は本土と直接やっている人もふえています。たしかに昔の中国ビジネスを知っている人ほど本土と直接ビジネスをしたがらない傾向にあり、あまり国際ビジネスの経験がない人は先入観もリスク感覚もなくどんどん中国と直接ビジネスを始めていきます。事実、本土でのビジネス・インフラも目覚しいスピードで改善れていることも確かです。
そこで次の手として香港が考え出したのが「アジア・太平洋地域のサプライチェーン管理拠点」です。これは完全に立地条件を活用したもので、飛行機で4時間以内にアジアの全主要都市に行けること、また5時間以内のエリアに世界の人口の半分が居住していることにあります。中国本土内のみならずアジア内での貨物量が急増していることからこの立地はかなり強みです。日本企業の中国進出も安い労働力を利用してコストを下げようという単純なレベルから抜け出し、複数の工場を持つ企業、また部品や下請企業もそろって進出したり、世界最大の人口をかかえる中国市場をターゲットとする企業など物流戦略は今後の重要課題となってきました。また、アセアン諸国との FTA協定が中国、日本ともに完全に締結されればなおさらのことです。
さて、私の会社では香港・中国市場へ日本の消費財をコンテナ単位で輸出しています。また、販売の重要拠点は香港と上海にありますが、そのときの消費景気を見ながら揚地をコントロールしています。たくさん売れる所にコンテナをつけ、一部をその他の地域へ配送する方法です。輸出入に関するコストは本土に比べると香港のほうが高いですが、通関スピードや決済面での利便性を考えると総合的には香港に軍配があがります。取引先の日本企業が中国に工場を持っている場合はその工場から直に出荷をしてもらい輸送コストを下げています。 3年前サンプルをひとつひとつ買い集めテストマーケティングをすることから始め、SARS禍あり、反日運動ありで、身についたのは「忍耐と知恵」です。
河口容子
[058]CEPAで甦るか香港
最近、会社経営者の知人が香港に久しぶりに出張しました。返還前の香港を知り尽くしている彼としては「さびれましたね。欧米人も日本人も減ったし、街には活気がないし。中国本土からの観光客は増えたみたいですけど。」というのが帰国後の第一印象です。確かに返還されても一国二制度の確約は守られ、行政的には香港は独立国とほとんど変わりません。ところが、返還を機に台頭著しい、そしてコストの安い本土へ拠点を移す外国企業が急増したのです。日本人駐在員も 1万人以上減ったといいます。外国人駐在員とその家族、そして観光客が減るだけで香港の観光業、不動産業、小売業にはかなりの打撃であったようです。
さて、10月30日には都内のホテルで「香港華南シンポジウム CEPA (経済貿易緊密化協定) がもたらす事業機会」というセミナーが行われました。香港からのミッション・リーダーは香港行政区ヘンリー・タン財務長官です。CEPAというのはClose Economic Partnership Arrangementの略で来年 1月 1日から試行される香港と中国本土間の自由貿易協定のことです。製品貿易については「香港製」と認定される製品 273品目につき中国に輸出する際「ゼロ関税」が適応されます。サービス貿易については18分野の香港を拠点とするサービス産業の中国における市場開放が行われます。貿易および投資手続きの簡素化が行われます。