パリに来て新しく就いた仕事の一つに「フランスの食材研究」があります。そのなかでも取り分け力を入れているのがチーズ。日本にチーズをワインのように普及させ、根付かせたいという主旨のもの。だからほぼ毎日のようにチーズを食べています。それまではチーズなんて、ワインを飲むときのちょっとしたおつまみ程度にしか考えていなかったのですが、いざこれを職業とするとチーズの効能みたいなものからレシピまでいろいろと深く研究することになってきました。
チーズを習慣付けて食べるようになって、体が一番喜んだのは爪。マニュキアで痛んだ爪が元気になって来た。今までならPCのキーボードをちょっと強く叩いた位で割れていた爪がヒビさえも入らなくなった。私のタイプ暦はまだタイプライターが手動だった時に1分80ワードを打っていたから、現在のPCの軽いキーボードだと、昔のように80とまでは行かないものの60程度はこなす。同居人もマシンガンタイプといつも笑ってる位だから。その分爪にも随分苦労を掛けてしまった。指の爪はまだしも、あまりにも哀れで見ることさえ出来なかった足の爪も、最近では綺麗に生え揃うようになって来た。一時はこの足、どうなるんだろうと他人事のようにさえも思っていたのだが。
「食材研究」の仕事をするようになって今まで以上に味覚を大事にしなければならない事になった。上司は日本にいて、私の味覚で上がる食材研究のレポを参考にして来仏の時に試食したりするのだから責任は重大。
ポイヤック村のとある女性ワイナリーオーナーの言葉を思い出す。彼女は利き酒しでもあるから味覚は命だと言っていた。だからそれを守るために刺激物は一切体内に含まない、ガムさえも噛まないと。玉ねぎ、ニンニク、しょうがなど刺激物大好きな私にそれは不可能。せめてもの努力でコーヒーを控えるようにしている。カフェに入っても夕方の晩酌時間でワインを注文する以外はもっぱらホットミルクにしている。お子ちゃまみたいだけど味覚は今の私にとっては大切な商売道具。
食材研究の仕事柄、よく外に出かけます。だからカフェに寄る機会も多く、今はパリのカフェをミルクハンターとして飲み比べたりもしています。チーズの美味しさはミルクが基本。どの辺の牧草を何時頃食べた牛の乳が一年のうちで一番美味しいチーズを作るのか左右します。だからミルクの味を覚えることは、美味しいチーズの発見にも繋がること。
夢路とみこ