[222]パリでアールヌーボー

パリでアールヌーボーと言えば、まず浮かぶのが16区パッシーの散策かな。さすが高級住宅地だけあって、玄関から、その外壁までとにかく目を見張る美しさ。ただ歩くだけでも気分はかなりリッチに満たされるはず。でも、最近の猛暑でこうも暑いとせっかくの散策も汗だくでやりたくもない。でもパリだもん、アールヌーボー芸術に浸りたい。。。。という方、8区はコンコルド広場の側にピエール・カルダンの店、「マキシム」の2階がアールヌーボーのミニ美術館であることをご存知かしら?
そこは、私だけのアールヌーボーの世界と言わんばかしの小規模ながら充実している美術館。時間のない観光客にはぴったし、というだけでなく、建築だけじゃないアールヌーボーの世界を見たい人には絶対にお薦めしたい所。
マキシムと言えば「星のない名店」と呼ばれるくらいに有名なレストランですが、はやりこの美術館の入り口からその洗練は始まります。厚みのあるじゅうたん、格式を感じさせる内装、ベルエポックを感じさせます。これがブルジョワの世界なんだろうな、とモロ庶民の私はここの美術館へ観光客を案内するときに思います。ほんの15ユーロで自分が今まで見たことのないようなものを見れる、たぶんこの先もあまりご縁のない世界にほんの数時間だけでも浸れるこの贅沢が好き。
でもいつもこの美術館に入って感心するのは、良くこれだけ個人で集めた事とアールヌーボーというのは芸術面だけでなく機能的に出来ているということ。そしてそう分かるようにガイドが熱意を持って説明してくれること。アールヌーボの芸術作品はナンシーにも16区にもあるけれど、でも、それが機能的であるかなんて誰も説明してくれない、そういう風には見せてくれない。それを既に知っている人だけが味わって鑑賞できるだけ。それに気づいたらやはりこの15ユーロの入館料を高いと言えるかな。月に1回だけらしいけど、館長さん自らが案内してくれる日があり、私は幸いなことにそれに当たった事がある。彼のこの美術館に対する愛情と熱意は私の船に対する感情に通ずるものがあった。
開館日は水曜日から日曜日の午後
午後2時からは英語ツアー、午後3時15分と4時30分は仏語ツアー
料金15ユーロ
毎週金曜日は予約要ですが110ユーロでマキシムのランチと美術館ツアーが楽しめる。
http://www.maximums-musee-artnouveau.com
夢路とみこ

[220]国際人に出会った日

2年ぶりにアナコリュート号に乗った。最後に乗ったのは突然解雇のすぐ後で、その次に見たのはパリに移ろうと決心した日。古巣の船会社に戻りアナちゃんと一緒に再出発。正直言って生活苦だけどでもアナちゃんがいるから私はパリを離れられない。アナちゃんと一緒に沈没するまで頑張るんだもん。
今回はアナちゃんの取材に日本からジャーナリストが数名来て、その案内役として添乗。定員50名のうち日本人は5名、残りはアメリカを中心とする英語圏の人ばかり。6泊7日の船旅、さて我々日本人はガタイの大きな英語圏の人たちに押されてしまうのだろうか。
アメリカ人はとにかく陽気、ハーモニーを大切にするから同乗するのは本当に楽しい。その中に一人、とあるアンクルサムが私に擦り寄ってくるではないか。どうやら同じデジカメを所有しているのが気に入ったらしい、そして充電器を忘れたことも理由のひとつ。このサムさん、現役のときは相当のビジネスマンだったのが伺える。今は引退してただのお子チャマのよう。昼間サロンでジャズピアノを弾いてたかと思えば、夜は食事の後にギターでフォークソングで他の客を魅了していた。たまげたのは、セーヌ川の夜クルーズでカラオケを始めたこと。バリバリの英語訛りの仏語で謡うフランス童謡に他の船からも喝采が。現役中に仕事人間に徹することなく、このような教養も身につけるとはあっぱれ。
その侍は食事の席に着くと必ず自分から周囲に話し掛けていた。相手の出身地を伺い、その地を訪れたときの話などを始め、自分から殻を割って周囲を引き込んで行った。その侍は自ら英語は苦手と言いながらも、ためらうこともなく堂々とした態度で。側で聞いていて確かに流暢でなかったけど、その誠実な語り口が温かみを感じさせる。
語学は苦手だからと言いながらも、外国語で現地の人と口論したことがある事を自慢する同輩は少なくない。毅然な態度で打ち負かした事を誇示するけれどどうなんだろう。限られた語学力の中で相手に和解をさせる努力を試みないで勝者と言えるのだろうか。
下船前夜、ガラディナーが開かれる。最初の夜よりも一層交友が深まっている。侍が折り紙を折っているではないか。同席の人たちに鶴や奴さんを折ってプレゼントしてる。クルーが華やかに飾りつけた食卓に侍のささやかな国際交流が彩りを添える。私は亡き母の着物をリフォームして洋服にした装いで日本を紹介するのが精一杯だった。
夢路とみこ