[190]パリでごはん(3)

12区で宿泊した民宿のオーナー夫妻が「ワインが好きならきっとこの店気に入るよ」というのでその店に向かう。場所はメトロ駅Faidherbe ChalignyからNationに向かいFaubourg Saint Antoine通りを歩くとすぐ。相当の人気店の理由は、ワインリストのすごさか、キッチュな内装にあるのか、はたまたカジュアルな接客に惹き付けられるのか私の想像は尽きない。私が行った夜も店内は8時というのに予約席以外は満席。「店内は満席、外ならOK」と乾いた口調にムッと来たけれど、一元客に媚びないのがパリジャン?

ここでたまげた事二つ。一つはワインリスト。ワインバーとは聞いていた物のリストはボトルでの値段しか書いてないのに、注文すればハーフでもグラスでも出してくれること。飲んだ分だけ割り出してくれるらしい。えー、ここにあるワイン全部グラスでもOK?それはワインの消費量にも自信があるからそんな事出来るのでしょう。ワインの産地もフランス各地が網羅され大都会パリを見た。参考書のように分厚いワインリストをゆっくりと眺めながらVin de Paysなのに他のAOCレベルのワインとほぼ変らない値段の20ユーロというこの手のものではちょっと高価かな、と思えるDomaine TriennneのNuns-les-Pins92年を注文。この国のドメーヌには設備投資がかかるAOCへの格上げを断念してVin de Paysで勝負する小さなドメーヌがあり、AOCやそれ以上のクラスのワインに負けない物を作ると聞いた事がある。たぶん、この夜の私のワインはそんなワインだったのだろう。
たまげた事の二つ目。オーナーらしきムッシュのぶっきらぼうさに反するマダムの外国人客へ向けるお茶目な英語のキュートさ以上に驚いたのは、ナプキンがリネンや紙でなく、トーションと呼ばれる布巾。「えー、トーションをナプキンにする、あんたは!」と心の中で絶叫。この布巾、厚手のコットン地で丈夫の上、ワイングラスなどガラス製品をこれで磨くとすごく綺麗だから船のキッチンはもちろんのこと、私の自宅のキッチンもこればかり。でも、ナプキンとしては使わんぞ!味良ければ全て良し、という店でした。
Chez Ramulaud
269,rue du Faubourg St. Antoine, 75011 Paris
Tel 01 43 72 23 29

夢路とみこ

[189]パリでごはん(2)

メトロMichel Bizotが最寄駅のシェナ夫妻経営の民宿に泊まった時にムッシュに安くて美味しくてとってもパリってお店を紹介してとお願いしたら、家から徒歩5分のこの店を教えてくれた。お店の番号を気をつけて探さないと見落としそうなくらい住宅街の一角にあるこのお店は「ベルエポック風」の小さなお店。
私が行った時期はちょうどヴァンダンジュ(ワイン用葡萄の摘み取り時期)が南仏では終わっている時期でヌーボー前のもろみワインが楽しめる頃だったから、食前酒にBernacheという白のもろみワインをグラス1.5ユーロで飲ませてもらえた。これは醗酵途中のワインでジュースとワインの往来途中みたいな軽いもの。季節じゃないと飲めないし、これを出すお店もディジョンですら見たことがない。11月にニュイでこのもろみワインの祭り「ボーリュー祭り」で飲める位かな。

料理は洗練されたというよりも家庭料理に遊び心を加えたような感じ。懐かしい味にちょっとしたお洒落、と思えたのは前菜のマグロのタルタル(たたきの様な物)はトマトソース合え、主菜のマグロのステーキに敷かれたソースがかぼちゃだったのを見て。マグロは油が乗ってるから味も濃いのでどちらかというとシトラスかヴィネガー系のソースで軽く仕上げるのに、トマトやかぼちゃでドドーンと来た、でも食べてみたらワインに合う。この田舎臭そうなアレンジが返って前衛的なフレンチなのかも、と勝手に納得。
私の目線ミッシュランチェック項目は色々ありますが、ここでは配膳のもてなしを評価したい。メートル・ディー(フロア責任者)と思われるムッシュは私を含めて全てのお客様に良く声を掛ける。それも無理のない自然な笑顔で。だから初めてのお客さんも常連のごとくムッシュに心を開く。ムッシュは配膳の後もハーフボトルなのにそれを注ぎに来てくれて、「お味は如何ですか、マグロの焼き具合は十分ですか?」とまるでちょっと良いレストランに行った気分にさせてくれる。もちろん一皿20も30ユーロもするような店ではこれは普通なのかもしれないけれど夜のメニューで30ユーロ以下の店ではちょっと珍しい。これが形には残らないサービスであり、常連さんを増やす技術であるのかもしれない。見習おっと。
Restaurant Les Zygomates
7 rue de Capri, 75012 Paris
01 40 19 93 04

夢路とみこ