前号の続きで、そのロジックからするとこの店の料理がおいしい事は頷ける。そしてパティシエのお店だから見かけにもこだわっていることは出来上がったお皿をみれば一目瞭然。
カフェ飯が美味しい店の条件のひとつにクロックムッシュー、オムレツ、そしてフレンチオニオンスープの出来があります。これらの料理はシンプルだけど料理人の基本だから、特にスープはスープストックを取るのに時間とお金がかかるけど、でもスープだからたいした料金は取れないということもあり、今ではもう大抵のお店が出来合いのスープをチンするだけです。だからスープをきちんとお店のキッチンで作る店はあまりなく、あるとしたらすごいこと。
またクロックムッシューも大抵のカフェが工場生産で食パンにスライスチーズとハムを挟んでオーブントースターで焼いてい程度、ベシャメルソースがはいっていたら上出来よ!あれだったら私だって作れるわ。
そこら辺の住宅街のおやじカフェで出しているクロック・ムッシュー(お約束のスーパー特売品みたいなもの)が5~7ユーロ、観光地カフェだとこれにレタスが数枚横に盛られていてはやり7~9ユーロ。では、このジャンポール・エヴァンの店では9.60ユーロであるとしたら、この店が有名店であり、場所がサントノレ通りにある事だけで払えるかしら?
それはご心配に及ばず。ここのクロックムッシュは9.60ユーロに値する、いやそれ以上の美味しさだから。この店のそれは耳のないサンドイッチ用のパンを使っていて、中味はハムではなく、チキンのフィレ、とろけたチーズにはエストラゴン(というハーブ)をふんだんにまぶしてありました。見かけも味も申し分がない。
エストラゴンは(英語ではタラゴン)というハーブで香りが強すぎて私はあまり好きではありません。でも、フランスにはこれを使ったドレッシングなどあるし、チキンに合うハーブと料理本には書いてあるけれど、これまでエストラゴンを使った料理で美味しいと思ったものはまずなかったのです。
だから私の頭の中では、エストラゴン=まずい=食べきれない、だったのですが、この店のクロックムッシュを食べて初めてエストラゴンが美味しいと感じました。やっぱり料理は腕だわ。腕のある人が作ると美味しい。腕のない私が作るといつまでたってもエストラゴンは私のキッチンで能力を発揮できない、9.60ユーロですっかりエストラゴンを見直してしまいました。
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夢路とみこ
[328]ジャンポールエヴァンの店(1)
ルーヴルからオペラの間はパリの中でも伝統的な観光地で季節を問わず世界中からの観光客でいつも賑わっています。だから食事処もお茶をするところもかなりいい加減なサービスと味なのに値段だけ一丁前なんだからといいたくなる店が多いのです。
またここには、高級店が並ぶサントノレ通りがあり、世界で一番土地が高い、宝飾店ばかりだかららしいけど、ヴァンドーム広場もあるから有名なセレクトショップの「コレット」やパリを代表するパティシエのジャンポール・エヴァンの店もあります。これらの店は軽食が食べられるサロン・ド・テを併設しています。
この店のすごいところは、ここがパリか東京か錯覚してしまいそうな雰囲気にあります。まずその理由の第一は、地上階(日本の一階)はショップなのですが、販売員の数名が日本人らしく日本語が良く聞こえる、そして包装や支払いが素早い、まるで日本のデパート並み。小さな商品にも大きな袋に入れるのも日本。
そして一階(日本の二階)にはサロン・ド・テがあります。ここはランチタイムになると近くの会社員と言っても場所がサントノレ通りだからシックな人たちばかり、またはいかにもこの界隈の常連買い物客と思わせるようなブルジョワマダムたちが大集合。
ここのランチタイムの食事にはセットメニューというのはないようですが、単品のひとつひとつをとても丁寧に作る少ない品数です。メニューだけ沢山あっても手抜き料理、レンジでチンして出すようなカフェやブラッスリーはパリに多いですからね。それからすると少ないメニューでも一品一品に手が凝っているなと思える料理を出す店なら少々高くても(と言ってもその差額は僅か1、2ユーロ程度でしょ)を払う気になれます。
時々耳にする話で、お菓子作りは目方が重要だから几帳面な性格でないと良いパティシエには慣れないし、また、良いパティシエは料理をするとしてもやはりきちんと目方を量るところがあるから美味しく美しいものが出来ると聞きます。
料理人の場合、感性が主体となって作るから料理人からパティシエに転職することは、パティシエが料理人になる事よりも少ないらしい。感性が重要視されるという点からか、料理人がソムリエになったという話は良くのですが。
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