パリでアールヌーボーと言えば、まず浮かぶのが16区パッシーの散策かな。さすが高級住宅地だけあって、玄関から、その外壁までとにかく目を見張る美しさ。ただ歩くだけでも気分はかなりリッチに満たされるはず。でも、最近の猛暑でこうも暑いとせっかくの散策も汗だくでやりたくもない。でもパリだもん、アールヌーボー芸術に浸りたい。。。。という方、8区はコンコルド広場の側にピエール・カルダンの店、「マキシム」の2階がアールヌーボーのミニ美術館であることをご存知かしら?
そこは、私だけのアールヌーボーの世界と言わんばかしの小規模ながら充実している美術館。時間のない観光客にはぴったし、というだけでなく、建築だけじゃないアールヌーボーの世界を見たい人には絶対にお薦めしたい所。
マキシムと言えば「星のない名店」と呼ばれるくらいに有名なレストランですが、はやりこの美術館の入り口からその洗練は始まります。厚みのあるじゅうたん、格式を感じさせる内装、ベルエポックを感じさせます。これがブルジョワの世界なんだろうな、とモロ庶民の私はここの美術館へ観光客を案内するときに思います。ほんの15ユーロで自分が今まで見たことのないようなものを見れる、たぶんこの先もあまりご縁のない世界にほんの数時間だけでも浸れるこの贅沢が好き。
でもいつもこの美術館に入って感心するのは、良くこれだけ個人で集めた事とアールヌーボーというのは芸術面だけでなく機能的に出来ているということ。そしてそう分かるようにガイドが熱意を持って説明してくれること。アールヌーボの芸術作品はナンシーにも16区にもあるけれど、でも、それが機能的であるかなんて誰も説明してくれない、そういう風には見せてくれない。それを既に知っている人だけが味わって鑑賞できるだけ。それに気づいたらやはりこの15ユーロの入館料を高いと言えるかな。月に1回だけらしいけど、館長さん自らが案内してくれる日があり、私は幸いなことにそれに当たった事がある。彼のこの美術館に対する愛情と熱意は私の船に対する感情に通ずるものがあった。
開館日は水曜日から日曜日の午後
午後2時からは英語ツアー、午後3時15分と4時30分は仏語ツアー
料金15ユーロ
毎週金曜日は予約要ですが110ユーロでマキシムのランチと美術館ツアーが楽しめる。
http://www.maximums-musee-artnouveau.com
夢路とみこ
[221]旅のヒント(6)
大人の社交場、パリのレストランやディナーショーのある場所ではドレスコード、つまり服装規定が設けられているのは大体のガイドブックに掲載されているから知られている事。しかし、残念ながらこれをきちんと認識せず無視する観光客がいるのはとても悲しい。それは日本人観光客だけでなく、欧米人でもそうだけど、やはり大人の社会ではプロトコールを守ってもらいたい。特に店側のきちんとした対応を望むのであれば、こちら側も店に敬意を払う身支度で行くべきではないだろうか。
先日観光アテンドの仕事でリドに行った。顧客の女性と私は偶然にも共に母の形見の着物を洋服にリフォームした装いで。クローク担当の女性がまず「お二人ともとても綺麗なお召し物で」と笑顔がほころび、私達の敬意を喜んでくれた。帰り際も丁寧な挨拶を受けた。ほんのちょっとの心遣いが私達にとって嬉しいように、相手も同じマナーで返して来る。
米国で学生だった頃、基本的なビジネスマナーを学びその中で服装について教わったことがあります。自分らしく見せるための装いとは、会議等で存在感を与える装いとはなどなど。どんなに中身が良くても身支度がきちんと出来ないで軽視されるのは半ば自己責任と。
とある日本のムッシュと装いについて会話した時、服飾関係の仕事をしている彼はすんなりと「きちんとした服装は相手への思いやり」と。会社の重要なポストにいて社交場への出席が多いこの日本のマダムはこれについて「相手への敬意、それなりの対応を望むなら当然のこと」とこれまたすんなり。この言葉の重み、分かるでしょうか。
観光の仕事をしていると良く聞く文句が「日本人だから馬鹿にされた」とか「アジア人だから隅っこの席しか用意してくれなかった」などなど。確かにそれは嘘ではないと思いますが、でも、全部が全部、現地側の意地悪とは言い切れないはず。
チップひとつにしてもそう、その習慣が無いことを良いことに全く置かなかったり、また他の人だって軽装じゃないと他人ばかり避難して、自分の場違いの格好を省みもしない。常にこのドレスコードを意識してお店に入ればそうそう意地悪をされることもないはず。
昔読んだピエール・カルダンが書いたコラムで、彼は出張の時は他の荷物を減らしてもダークスーツと皮靴は必ず持参する、どこでどのような席に招かれても困らないようにと。さすがエレガンスを商売にする人の言葉だけあると感心したものです。
夢路とみこ