[278]伝言係りを撃つな!

接客の仕事で一番困るのは、私達では何とも回答出来ない、上司に確認したって無理、会社の上層部の指示を仰がなければならない事に対して苦情を聞かなければならない時。旅先で思いがけない事に合い興奮して我を忘れてしまうその気持ちは分からない事もないけれど、泣こうが喚こうがお日様はいつも東からしか昇らない。
怒っているご当人は同胞人なんだから気持ちを汲めよ、日本と同等のサービスをしろよ、と思っているのでしょうが、ここはフランス。郷に入れば郷に従えじゃないけれど、上司は日本語でのサービスを提供する事のみを指示するだけで、日本と同等のサービスにする事については日系の企業でない限りその理解は得難い。むしろ、そのレベルにすると、他の国の顧客がそれを要求するし、また働く私達の日本人以外の同僚に負担がかかるという事で返って迷惑がられる事も多々とあり。
日本へ旅行してそのサービスの質の高さに驚嘆はするものの、それを導入しようとする動きは殆どなく、また、多国籍社員の会社で私達日本人だけがそれをしようとすると周囲との調和が崩れ、またはそれをでしゃばり行為であると見なされる事もある。その結果、異国で生活、仕事をする私達に精神的圧力をかける結果となりうるのです。日本人顧客と外国人上司や同僚の間に挟まれて四面楚歌の状況に。
ある浅い、英国人の同僚に顧客がどなりちらしていた。同僚は上層部の回答をそのまま伝達したのみで、それ以上の事はなんともしようのない事なのに。彼はその顧客に苦情係りの連絡先を案内し、不服はこちらに申し立てるようにと促した。私にも良く起きる状況。彼は怒りの捌け口にされながらも冷静に話を聞くだけ聞いていたけれどこの顧客がエスカレートするので、とうとう堪忍袋の尾が切れて、一言「私はただの伝言係りです。私に銃を向けても事態の収拾はつきませんよ。」Don’t’ shoot the messenger!
お見事な一言!そうなんです、伝言係りの私達を撃っても根本的な解決にはなりません。無駄なエネルギーを使うのではなく、ここは落ち着いて、しかるべきところに苦情を持って行くようにして下さい。私達だって出来るものなら一緒に解決した所ですが、特定の国籍の顧客を優遇する事は会社に損益を齎す人物と見なされ解雇という最悪の状態をも招きかねません。それが、お客様は神様ではない国でのサービスに対する意識なのかも。
夢路とみこ

[095]食事マナーに目が白黒

フランス料理が高いというのは使う素材が高価なもの、合わせるワインが高価な物と色々な食そのものに帰する要因がありますが、食材と同じ位に高くつくのがサービスの値段。サービスを提供しチップとして報酬をもらう事もある私もそのサービスを向上させる目的で食に関する知識の向上のため夜間講座に入校。
この食のセミナーは理論でフランス料理を学習するものだからワインセミナーや料理教室のような試飲,試食が無く私も背筋を伸ばしてまじめに受講。同じクラスの仲間はこの講座を開講しているホテルスクールの学生が中心で、一部私のような社会人で趣味、叉はレストランやホテルの従業員でスキルアップのために来ている人もいます。開講が夜の8時から、そして90分ということもあり、スライドでおいしそうな料理を見る度にお腹がグクーと鳴いている。そしてまじめに料理やその盛り付け、テーブルコーディネートについての理論を聞く。見るだけとは拷問だ。

日本では居酒屋と立ち食い蕎麦屋が大好きでそれが一番恋しいと思う私が抱く「料理は美味しければ何でもいいじゃん」的な概念はこの国では許されないらしい。講師の言葉を借りると、「料理は数ある芸術の中でも人間の五感が同時に働く唯一の芸術である」だそうです。すごいこの国では料理が文明や文化の域に達していてミッシュラン3つ星のシェフが人間国宝みたいに扱われる理由が良く分かる。
所変われば慣習も変わり、食に関するマナーでいつも気になるのが食事中の手の置きどころ。私は子供の頃から食事中に手はお茶碗を持つ、皿を押さえて食べるように躾られました。米国ではナイフで切り終わったら片手は膝の上に、フォークだけで食べる様にとマナー教室で教わりました。あちらでは片手はテーブルの下、両手が上がっているのははしたない。フランスでは両手がテーブルの上、片手を下にするのがはしたない、両国とも日本のように茶碗を口元に近づけて食べるのをはしたないという。
この3カ国の慣習の違いに私はいつも目を白黒させています。米国では手がテーブルにあるのは指が手持ち無沙汰で色々触るのが良くないと言い、この国では中世の名残、その頃は手に凶器を隠し持って暗殺の機会を待っていた事も多々とあったので身の潔白を示すために両手をテーブルに置いていた事が今日に至るらしい。
いずれにせよ、口からポロポロこぼれ落ちるのが嫌だから椀物を持ち上げる私を白目で見るのは止めて欲しい。

夢路とみこ