[637]土左衛門

水死体のことを「土左衛門」といいます。読みは「どざえもん」。

土左衛門は元々は江戸時代の力士「成瀬川土左衛門(なるせがわどざえもん)」に由来しています。色白で肥満した力士であったようで、膨れあがった水死体が彼にそっくりであったことから、水死体のことを「どざえもん」というようになったとされています。

江戸時代より名を残したということは大変なことですが、それが水死体の代名詞とはなんとも複雑な気持ちでしょう。水死体=土左衛門という代名詞が彼の生前から使われていたかどうかは定かでありません。ちなみに男の土左衛門はうつぶせに浮き、女性の土左衛門はあおむけに浮くといわれます。が、これも定かではありません。

ところで水死体の場合ですが、死んだ直後は人間は水の中では底に沈みます。しばらくして腐敗が始まりますとたんぱく質が分解してガスを発生し、浮力がつきます。その結果浮いてくることになります。腐乱し水を含んでいるのでぶよぶよに膨らんでいます。この状態が土左衛門。

ガスによる浮力は相当なもので、よく手足にコンクリートブロックなどをくくりつけた殺人事件などを小説などに登場しますが、実際そんなものでは浮いてきてしまうそうです。ガスを含んだ土左衛門は腐乱が進んでやがて水中に沈んでいきます。

さて、事件簿のようになってきましたが、水死体には生きたまま水死体になった場合と、死んでから水中に捨てられ水死体になった場合とがありますが、これは法医学的に簡単に判別できるようです。

生きた状態で溺死しますと、水が肺に入り込み、生きているがゆえに水の不純物が細胞に取り込まれるのです。これを生活反応といいます。これに対し、死んでから水没した場合は同じように肺には水が満たされていますが、生活反応がありません。この法則を知っていれば水死体が入水による自殺か、どこか違うところで殺された他殺かがわかるということです。

ちなみに湖で水死した場合など、その湖に生息するプランクトンが細胞の中に入り込んでいるため、溺死した場所を特定することもできます。死者に口無しといわれますが、とんでもない、死者ほど饒舌なものはないのです。こういった分野は法医学といいますが、私たちが想像する以上に進んでいる分野なのです。

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