[894]血清とワクチン

2013年10月12日

血清は毒に対する抗体を持った物質です。血清を打つことで毒を中和します。したがって中和した後は、もう何の役にも立ちません。その場限りの特効薬が血清です。

これに対してワクチンは、毒を中和する抗体を自らの体の中で生成するのを助ける働きをします。ワクチンはウサギなどの他の動物に病原菌を打ち、抗体をそのまま人体に移すものです。移された抗体が増殖、体内に抵抗力がつきます。増殖するのに時間がかかるので血清のように即効性はありませんが、一度ワクチンを打って抗体ができれば半永久的に抵抗力があります。「一生に一度しかかからない」というようなハシカなどはこういった原理によるものです。

毒蛇に咬まれたときに血清を打って治療したとして、その場合の血清は今度は身体に対して抗体を生じさせることになります。一度目は良いですが、二度目に血清を使ったときに、体の抗体が反応してアレルギーを起こすことがあります。これをアナフィラキシーショックといいます。

このため毒蛇に咬まれた場合に一度目に馬の血清を使ったときは、二度目は馬以外(例えば羊)の血清を使わないとショック死することもあるので注意が必要です。血清は何度も使うと危険なわけです。症状が軽い場合は、あえて抗毒素を使わず、対症療法のみで自然治癒を待つほうが安全な場合もあるのです。

さて、血清もワクチンも生物の抵抗力を利用した物です。そこには若干の危険や犠牲が欠かせません。そこで今研究されていることはバイオテクノロジーでこれらを作り出す技術です。ウサギや馬や羊ではなく、人体と同じ環境を試験管内でつくり、そこで人体用にワクチンを作り出す技術です。他の生物に依存しないクリーンで安全なワクチンがまもなく完成することでしょう。