[32]トンボとり

2019年3月21日

第32回
■トンボとり
トンボは春から夏にかけては何処にでもいて、又種類も沢山いました。図鑑でも見ないと説明出来ませんが、一般的に何処にでもいるのは「麦わらトンボ」と云って、あまり大きくはなく胴体が黒と黄色のまだら模様になっているものです。もう一つは「塩からトンボ」と云って色は薄い青に塩をまぶしたような体で、此の二つは何処にでもざらにいるから、余程小さい子しか相手にしなかったようです。
小石川の「宮様が原」の廣い草原には夕方になると、沢山の虫が飛び交っていますから、それを狙って大型の「鬼ヤンマ」や「銀ヤンマ」とか「おくるま」などと云うトンボが集まって来るんです。
普通の子供達は柄の長い捕虫網か、細く長い釣り竿のようなものに「モチ」と云うものを駄菓子屋で買って来て、その「モチ」を手指に唾を付けながら、竿を回しながら塗って行くんです。そしてその竿でトンボや蝉をくっつけて獲るんです。でも捕まえても「モチ」がベタベタとくっついていますから、あまり使いません。子供達は此の捕虫網やモチ竿を振り回してもまず取れません。
此の大型のトンボは止まることはありませんし、しかも上空の10mくらいの所を飛んでいますから、捕虫網やモチ竿では届きませんから、小さな子達には捕まえることは出来ないのです。此のトンボの種類については専門家ではありませんので、正式な名前は分かりません。
飛んでくる大きなトンボは、一番数の多いのは「銀ヤンマ」です。体長は10cmくらいで、体全体が青色で、銀粉を吹き付けたように光る綺麗なトンボです。
もう一つは精悍な「鬼ヤンマ」です。体長は12cmくらいあったでしょうか。「銀ヤンマ」より少し大きかったような気がします。体の色は真っ黒に黄色い縞模様が取り巻いていて、いかにも「鬼」と云う風情です。
そしてもう一つは「おくるま」と云うトンボです。大きさは「銀ヤンマ」と同じくらいですが、全身真っ黒ですが、尻尾の先端に丁度車のように半月系の出っ張りが付いているんです。此のトンボは数も少なく、滅多にお目にかかれない代物でした。
夕方近くの空を飛び回る此の大型のトンボを捕まえるのは「お兄ちゃん」の出番です。皆さんは「つづみ弾」と云う空気銃の弾をご存じでしょうか?現代は空気銃の所持もやかましい規制を受けていますが、当時は誰でも持つことが出来ましたから、それに使う鉛で出来た「鼓弾」は何処にでも売っていました。缶入りで100?300発くらい入っていました。
此の「つづみ弾」とは、直径3ミリくらいで、長さは5ミリくらいで、丁度真ん中辺がくぼんでいるもので、「鼓」(つづみ)
の様な形をしているのでこう呼んでいました。
そして「木綿糸」を1mくらい用意して、「鼓弾」2個に此の糸の端にそれぞれを縛り付けるんです。用意が出来たら此の糸の中心当たりを持って二、三回振り回して、10mくらいを目安に勢いよく空に投げるんです。すると「ヤンマ」はその「鼓弾」を虫かと思ってスーッと追って来るんです。違ったな・・とトンボは気が付いた時は遅く、付いていた糸は見えないらしく、其の糸がトンボの羽にからまって、鉛の「つづみ弾」の重さでスーッと落ちて来るんです。
投げる度に成功するものではありませんが、こうして捕ったトンボは綺麗ですから昆虫標本にすることも出来ました。
そして夕日が落ちて一日が終わります。空を自由に飛び回っていたトンボ達も姿を消して行きます。此のヤンマの様な大きなトンボは何処に帰るのでしょうか?
原っぱには森はありません。懐中電灯を持って夜の庭先の大して大きくない木の、あまり高くない所の葉っぱにぶら下がるように止まって寝ているのです。それを見つけたからと云って捕まえません。朝になれば又元気に空を飛んで害虫を食べてくれるんですから「お休みなさい」と云って、そっと帰るんです。
先程蝉やトンボをくっつけてとるための「モチ」のお話をしましたが、駄菓子屋で買うと割り箸に水飴のようにくるくると付けて、3cmくらいの玉にした物で1銭はしました。お小遣いのない子供達は色々と考えます。
その当時は高い電線に夕方になると大きな「鬼蜘蛛」が巣作りを始めます。子供達は竹竿の先に細い竹で輪っかを造り、それで「鬼蜘蛛」を捕まえるのです。すると「鬼蜘蛛」はその輪っかにグルグルと何回も回りながら糸を張って行くんです。適当に糸が巻けたら「鬼蜘蛛」を放してやります。出来たての蜘蛛の糸で作った捕虫網でもトンボや蝉くらいなら何とかくっつけて捕ることは出来るんです。でも時間が経ってくると付かなくなってしまうので、又繰り返して作らなければなりません。
当時の子供達はあまりお小遣いを持っていませんでしたから、創意工夫をしながら遊んでいましたね。
トンボは元々水中で卵から孵化して「やご」となりますから、水辺に生息していたようです。ですから水辺に行くと珍しい種類のトンボが沢山いました。そして成虫になって空中に飛び立ち、人間の害虫である蚊や蠅等を補食してくれますから益虫ですし、蝉は成虫になって樹液を吸うだけですが、鳴いて季節を教えてくれる益虫です。
現代は此の「蝉・トンボ」も都会ではすっかり姿を見せなくなりました。もう逢うことはないのでしょうか? 寂しい限りです。
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