男の家の合鍵を持つようになってからというもの、日に日に男が私に頼みごとをする頻度が増していった。
シャンプー・ボディソープ等の生活雑貨から始まり、Yシャツ・ネクタイ・部屋着・靴下・下着と恋人や配偶者以外の女性に頼むにはちょっと行きすぎではないか…と思うような品物を平気で頼んできた。他人の下着を買うことに抵抗はなかったの?何故断らなかったの?と思う方もいるでしょう。不思議なもので、他人の下着でもどんな物かは指定されていたし、婚姻暦ありの私にはあまり抵抗を感じなかったのである。
次に頼まれた事は、男の使用する携帯電話の料金を支払ってくることであった。当時忙しく働いていた男の携帯電話料金は私の金銭感覚ではかなりの高額であった。さらに今までは頼まれる時に先払いでお金を渡されたのだが、その時は違った。「今ちょっと手持ちがないから悪いけど先に支払っておいてくれるかな。」と言われた。
もちろん躊躇したものの、いろいろお世話になっていたし男の店である夜のバイト代は結構良かったので手持ちはあった。躊躇している様子を感じた男はすかさず「直ぐに返すから心配するな。」と言ってきた。そして私は、不安を抱きながらもコンビニへ支払いに行くことになった。
数日後、男は言ったとおり携帯電話の立替代を返してきた。返されたお金は多少多かったのでお釣りを出そうとすると、「お釣りはやるから子供に飯でも食わせてやれ。」と言われた。それ程多くなかったこともあり、私はその言葉に甘えることにした。
この出来事があったことで、「この人はちゃんと返してくれる人なんだ。」と、私の中での男のカブが上がっていったことは紛れもない事実である。
しかし・・・この私の行動と心の動きは不味かった。男は何故お金を返してきたのか、当時の私はその意味にまだ気付くことができていなかった。作戦はアカサギの思うとおりに着々と進んでいたのである・・・
早乙女夢乃