[17]偽あしながおじさん

仕事をやめた後も、私は洗脳されたまま男との関係をだらだらと続けていた。
仕事をやめたことで私の収入は極端に減った。ご存知の通り、今まで働いて稼いだはずのお金も手元には殆どない。そんな私を哀れに思ったのか、男はそれから暫くは私からお金を引き出すことをしなくなった。まぁ、ただ単に私から引き出すお金がないと分かっていたから引き出さなくなっただけというのが本当のところではあるが・・・
それでも、あまりにも質素な生活をする私を見て本当に哀れな女と思い始めたのか、今までお金を引き出すために何かをしてくれることはあっても、無償で何かを与えることをしなかった男が、私に物を運んでくるようになった。
お米やパン・おかず・おかし・お茶やジュース等など、時折電話をかけてきては私の家に食べ物を届けてくれた。電化製品が壊れたと言えばすぐに買って届けてくれた。
男の店で働いていた頃よりも数倍優しく私に接してくるようになった男。そんな彼のことを「なんて優しい男なんだろう」と思い込み素直に受け入れる私。その当時、私の頭は完璧に男に洗脳されてしまっていたのがお分かりいただけるだろう。
ここの部分だけとると、男は私にとっていなくてはならない存在、いわゆる「あしながおじさん」のように写らなくもない。その当時は、「もし彼が私の前からが居なくなったら自分は本当にどうにかなってしまうのではないか。」と感じていたのではないかと思える程、男に洗脳されていたのは事実。今まで奪い取られたお金のことなんてどうでも良くなってしまうくらいに・・・
しかし、私が見つけた「あしながおじさん」の正体は、女から金を奪う為なら何でも出来てしまう「偽りのあしながおじさん」であった。
早乙女夢乃

[16]洗脳されたまま

働いても働いても自分の手元にお金が残っていかない現実を目の当たりにし続けたことで、少しずつ麻痺していた金銭感覚が正常に戻り始めたのか、いい加減私の労働意欲も衰え始めていた。
ちょうど時期を同じくして、独占力の人一倍強い男は、私が男の店で仕事をすることを嫌がるような態度をとり始めた。男の店は、夜の女を求めてやってくるお客を接待する仕事である。私は当然仕事だと思って愛嬌を振りまき、お客を満足させる為だけに働いてきた。男も私を利用して充分に事業を拡大してきたはずだ。
それが今頃になって私が男の店で働くことに苛立ちを感じているような態度を見せ始めたのだ。どうやら、私が自分以外の男と仲良くしているのを見るのが嫌なようだ。私が接客をし終わり待機所にもどると機嫌が悪そうな態度で私に話しかける。さらには男子社員と打ち合わせをしているだけでも機嫌が悪くなる始末。そして仕事が終わり帰ろうと男の車に乗り込むと待ってましたとばかりに嫌味を言い始める。そんな日々が暫く続いたことで、ただでさえ衰え始めていた私の労働意欲は加速度的に減退していった。
男が嫉妬心全開で私にぶつかってくることで、男に独占されたい女心が働き始めたのか、私はお客の相手をすること・男子社員と打ち合わせをすること全てを億劫に思うようになっていった。
働き始めて約1年強、そろそろ潮時かなと思った私は「辞めたい」と男に相談すると、「そうしろ」とひと言。男の顔が心なしか笑みを浮かべながら即答したことを覚えている。
ここで、当時の状態を再確認してみるといろいろな矛盾に気がつく。当時は何故男の態度が急にあのように変化したのかは理解できていなかった。私の労働意欲が衰え始めた原因は男が私の働いたお金を次々と引き出していってしまうという現実を目の当たりにしたからだったはずなのに、いつのまにか男が独占力・嫉妬心を私にぶつけるという作戦によって、私は男の計画のままにアカサギに洗脳させられたまま仕事を止める決断をすることになったのだ。
早乙女夢乃