[15]無知の怖さ

逆らうことのない完全なる金庫番となった私を思う存分利用して、男は私の稼いだお金を次々と引き出していった。この頃には、お金を引き出す理由などまったく要らないほど、私が完全に男に調教されていたのは明らかだ。
離婚したばかりの頃、今後の生活に不安を抱いた私はまだ今のうちなら夜の仕事で効率よく働くことが出来るのではないかという安易な考えで男の経営する店に飛び込んだ。実際本当に効率の良い仕事だったことは間違いない。いっしょに働く女の子たちも普通の子に見えたし、私たちをサポートする男子社員もいたって普通の子達に見えた。
しかし、ただ一つだけ最も重要な事実を私は知らなかったのである。夜の世界に渦巻く人間たちの怖さがどれ程のものかという事実・・・
親切に近寄ってきた男を本当に親切な人物として受け入れ、頼るようになり、遂にはすっかり調教されてしまった私。男が親切にした事も、頼るように仕向けた事も、体を使って調教し完全な金庫番に仕立て上げた事も、なにもかもがアカサギの悪質極まりない計画であることも知らずにまんまと騙された私。そして稼いだお金を次から次へと引き出される。
それでも働き続ける私。なぜなら、働いても働いても離婚した当時の不安が消えなかったのである。私はただ、これから生きる先に何かが起こって働けなくなっても暫くは食いつなげる程度の蓄えを作っておこうと思ってこの仕事を始めただけなのに・・・働いても働いても自分の目の前をお金が素通りしていってしまう現実に突き当たっていた。
早乙女夢乃

[14]カケヒキ

心と体を完全に奪われてしまった私が完全なる金庫番になるまでそう時間はかからなかった。
今までは男がよく私の家を訪れていたのだが、体の関係ができたその日を境に男の訪れる回数が急激に減ったのだ。今まで受身体制だった私は、男が訪れることが少なくなった事にやきもきしていたことを覚えている。
この期に及んで言い訳をするようではあるが、男を愛してしまった訳ではない。要するに男とのセックスにハマってしまった体が男を欲しくて欲しくて堪らなくなっていたのだ。
そんな状態で、私は男に電話をかけるようになった。男は、私が電話をすると数回のコールで受話器をとった。「どうしたんだい夢乃。何かあったのかい?」常に優しい口調で話す男。「いや、特に無いけど・・・何しているかなぁ・・・と思って。」と私。「今仕事中で忙しいから後で電話するから。」と男。「うん、わかった。じゃあまた。」と私。
私からの電話に男はこのような対応をする。実際毎回後で電話がかかってはくるのだが、それは必ずといっていい程2?3日経ってからだったのである。ちょうど私の体が男を欲しくて欲しくて我慢できなくなる頃を見計らって電話をかけてきて私の家を訪れるのだ。
そんなタイミングで来られたら、私の体が拒否することは絶対ない。数ヶ月の間、こんな日々を繰り返し続けた男。そして私を完全に調教しきることに成功した男は、私が男の体を欲しがる時期を計算した上で訪れてはお望みどおり私の体を満たしてあげたという態度で私から平然とお金を引き出していくようになっていたのだ。
よくある男と女の恋愛のカケヒキだろう・・・と言われればそれまでなのだが、男はこのような方法で私を男に逆らうことのない完全なる金庫番に仕立て上げたのだ。
早乙女夢乃