初めて海外出張をした時、日本の航空会社を使いました。その時のスチュワーデス(複数)の応対の悪さが今でも印象に残っています。他の男性の乗客に対しては大変親切なのにもかかわらずです。たぶん、ビジネスクラスで出張をする同世代の女性にサービスをすることが彼女たちのプライドをいたく傷つけたのだと思います。以来、ずっと乗客に快適に過ごしてもらう、そして安全を守るというプロ意識にあふれたキャビンクルーの乗っている外国の航空会社を選んで使っています。おかげで機内でもマニュアルにはない心を打たれるような光景を何度も見ることができました。
仕事で米国の小売店を星の数ほど訪れていますが、いつも感心するのは店員の心からの歓迎の笑顔です。また、飲食店に行くとすらすらとメニューをそらんじ、詳しく料理の説明もしてくれます。日本の小売店で出会う口先だけの「いらっしゃいませ」や注文すらきちんと取れないウェイター、ウェイトレスとは大違いです。日本の流通業や飲食業は一部の大企業を除けば個人経営が多く、アルバイトやパートタイマーに労働力を頼る部分が多いため、教育が行き届かないといえばそれまでですが、最終的には本人の「プロ意識」の差だと思います。そしてその背後に日本独特の職業や職位に対する偏見を感じとります。
幸いにして、私は大企業のサラリーマンと超零細企業のオーナー経営者というふたつの角度から日本のビジネス社会を経験しています。まず思うのは、日本の巨大企業や有名企業はそうでない企業に対し、慇懃無礼であったり、最初から相手にもしないという「身分差別」があることです。これは米国企業が広く門戸を開いているのと比べると大きな違いです。米国で人気上昇中のベンチャー企業に問い合わせのメールを送ったことがありますが、30分もたたないうちに社長自らが返事をくれ新鮮な驚きと喜びを覚えました。
日本には大企業や有名企業を頂点とする企業の序列があり、そしてそこへ勤務しているか否か、年収が高いか否か、職種や職位などで人間としての序列まで決まってしまっているようです。当然、階層の上と思いこんでしまえば高慢ちきになり、下と思いこんでしまえば肩身が狭く、中には向上心を忘れてしまう人もいることでしょう。
私がオフィスの電話へ出ると事務員と思いこんでか大変横柄な口をきく人がいます。代表者であることを知ったとたん、しばらく空白の時間ができ、やがて手のひらを返したように敬語だらけのセールス・トークを聞かされるはめになります。こういう人は自分より目下と思えば威圧し、先週書いたようなマイノリティの無視、女性の社長なんているはずがない、という偏見の持ち主です。
仕事である以上、誰かの役にたっているから賃金がもらえます。だから「くだらない仕事」は世の中に存在しないと思っています。また、どんな仕事でも完璧にこなすのは大変難しいことです。最近の日本人に欠けているのは「自分の仕事に対するプロ意識と誇り」です。努力しないでなるべく条件の良い仕事をしたい、あわよくば一攫千金という人ばかり何と増えたことか。条件を追い求めるのではなく、自分は何をしたいのか、何ができるのかをまず考えれば、そこからおのずとプロ意識や誇りが生まれるような気がしてなりません。
2001.05.11
河口容子